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世はウイルス騒ぎでマスクやトイレットペーパーの欠乏で開店前のドラッグストアに長蛇の列。秋葉原のラジオ会館も何時に比べて人が少ない気がします。話題のMJ miniaturesの3Dプリント製品、「ドイツ軍OVMクランプツールセット」をイエローサブマリン秋葉原店で購入。
精密な幾何学が並ぶ様子が未来都市のミニチュアに見えたので、箱にパーツを立てかけてインセプション風の写真を撮ってみました。

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後期ドイツ戦車の車載工具用のクランプが極小の3Dプリントで再現されてます。全体でも3mm程度の小さな部品。クランプのバンドの部分の厚みをノギスで測ってみたら0.25mm。3Dプリント特有の積層痕は..僅かながらあります。写真のように光の角度によっては気にならない程度ですが、うっすらと細かい筋は入ってるのでペーパーがけは必須ですね。といっても気にする人は..程度の痕跡。

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赤い部分がプリント時にできるゲートで処理の必要あり。説明書の紙が汚れてるのは帰り道の公園で待ちきれずに箱を開けたから〜 ..じゃなくて、ウェザリング調のグラフィックでしょうか。これが仕様です。

極小パーツなので切り出すにも気を使います。パーツを破損させないように大きめに切り取って、細かいところはナイフとペーパーでゲート処理..とは考えない方がよさそうですね。パーツが小さいので指やピンセット掴むのも大変。パーツ破損の危険があるのでやすりでゴリゴリ削るなんてのは無理。よく切れる刃物を使って最初の一振りで仕留める..ぐらいの心持ちでカッターでギリギリをせめて慎重に切り離すのがいいかもしれません。

プリント時のワックスが表面に残ってるので熱湯をかけて除去する必要あります、とのこと。 試しに台所でやかんが沸かした熱湯をかけてみましたが、熱で負けてパーツが収縮してしまう、ということはなかったので思いっきり熱いお湯に漬け込んでも大丈夫。..でしょう。

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スケール感の比較。右がドラゴンのスマートキットのOVMクランプ。工具と一体整形のものでクランプのハンドルは流石にインジェクションの限界で厚ぼったくなってしまってますが形状は悪くない。ハンドルをエッチングに替えてやるぐらいでも十分な精度。左の真鍮のクランプはMsModelsのエッチングパーツ。可動にもできる製品で組み立てやすさにも配慮された製品。クランプも小さめで雰囲気も十分ですが、部品間の板厚の抑揚が乏しくなってしまうのはエッチングパーツの宿命。真ん中のMJ miniatures の3Dプリント製品は(出力解像度の限界はあるにせよ)モデリングデーターをそのままに再現する3Dプリントならではの厚みの抑揚があります。ハンドルも極小極薄。これを見てると多くのエッチングパーツは3Dプリント製品で代替されていくような予感がします。

ここまでが新製品レビュー。


最近、ドイツ軍のOVMクランプの形でちょっと気になってたことがあったので、検証してみました。

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ヘッツァーを制作していて、車体側面のバール用のOVMクランプのディテールが実際どうなってるか調べて見ると、ドイツ軍中〜後期のクランプとして言われている形と少し違う。ハンドルの軸からのバンド形状が単純な円弧ではなく、軸の周りで一度絞ってあります。ディテールの写真はカナダのボーデン博物館の現存車両のもの。記録写真は"IN FOCUS’シリーズからのものですが、見ると同じ形をしているのがわかるので、この博物館車両のクランプもオリジナルの部品と考えて良さそうです。

これを参考にこの前の「ワルシャワのヘッツァー制作記」でもエッチングパーツのクランプをそれっぽく加工してみましたが、このクランプの形状がヘッツァーなどチェコ製車両に固有のバリエーションなのか、他のドイツ軍車両でも見られる特徴なのか気になるので、とりあえず事例収集。

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各地の博物館に現存する大戦中〜後期のドイツ軍車両のOVMクランプ。写真は主にPrimePortalから。
修理復元したきれいな車両だとクランプがレプリカに置き換えられてる可能性もあるので、車両の状態が悪くてもオリジナルのものが残ってる可能性の高いものをなるべく集めました。写真はクリックで拡大します。

パンター系列でもクランプハンドルの軸周りのバンドにくびれがあるのが確認できました。38(t)系、ヘッツァーのものに比べるとくびれかたは弱めです。3号戦車系列のクランプの写真でもわかるように、車両の系列の違いや取り付けるOVMの種類よってもバンドの形状に差異があるようです。形状のバリエーションと傾向を整理するには、もう少し詳しく事例収集する必要はありそうですが、いずれにしても1/35のキットでイメージしていたような単純な円弧ではないのは確か。

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エッチングパーツでこのクランプ形状の違いを表現してみました。左が組み立て説明図どおりに組んでみた形状。右が事例写真を見ながらハンドル軸周りのバンドのくびれを表現してみたもの。ピンセットで掴んで曲げただけなので若干精度は甘めですが。

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3Dプリントのクランプでもこの形状を再現すべく改造してみました。左がオリジナルの製品。右が改造して軸周りのくびれを表現してみたもの。
熱湯につけると柔らかくなって歪みを矯正できる、という樹脂特製を利用して最初はお湯をかけて柔らかくなったところでピンセットで掴んで曲げようとしてみたのですが、スチロール樹脂やレジンとは少し感触が違って、「しなる」けどぎゅっとつよい癖はつけることができなかったので熱変形の方法は断念。軸のところでバンドに切れ目をいれて少し段差をつけて、瞬間接着剤をパテがわりに調整。

曲げ加工した訳ではないから、やっぱりくびれ加減が少しぎこちなくなってしまったかな。まだまだ改良の余地あり。
というか、そこまでこだわるなら自分で3Dデーター作ってプリントショップに出力を依頼。という時代がもう目の前まで来てるんでしょうね。

Commented by かば◎ at 2020-03-08 11:13 x
私は今のところ、ドイツ戦車のクランプに関しては、「ハンドル部分をエッチングかプラペーパーで作り替える」以上のことはしたことがありませんが、なかなか奥が深いですね。

この3Dプリントはあちこちで話題に上っていて、これこそクランプの最終解決か!?なんて思ったりしたのですが、まだまだ先があったとは。
Commented by かば◎ at 2020-03-08 11:15 x
しかも改めて見ると、クランプハンドルも、平板だけでなく丸棒を曲げたタイプもあるんですね……。
Commented by hn-nh3 at 2020-03-08 18:33
こうやって見比べると、工具を装着した状態で再現する限りはインジェクションのパーツでもハンドル部分を薄く削り込むかエッチングに替えることで、オーバースケールにならないようになっていれば実用上は問題なさそうです。

工具を外した状態の空のクランプを再現しようとなると、やはりエッチングか3Dプリントの製品に頼ることになってきますが、バンドの形状にあれやこれやとバリエーションがあるという「クランプ沼」を見つけてしまった後には、もうどうしたらいいのやら。

あれこれとカスタマイズしやすいエッチングパーツにまだまだ可能性はありそうです。。
Commented by hn-nh3 at 2020-03-08 18:47
OVMクランプのディテール(のバリエーション)がわかるよい資料はないものですかね。

PanzerTractsの3号戦車No.3-3 の19ページにOVMの詳細図面が掲載されてますが、クランプは詳しく扱われておらず。

尾藤さんのアハトゥンク・パンツァーNo.5 3号突撃砲..のP113~115にOVMの形状、クランプ類のバリエーションが非常に詳しく解説されてます。
同書中の「固定具E」がこれに該当しますが、バンド形状のバリエーションまでは言及がないですね。
Commented by セータ☆ at 2020-03-08 18:51 x
これ、車体側の取付位置にホゾを掘って、クランプパーツのゲート(インストの赤色部分)をダボとして埋め込むようにすると楽かも?
Commented by hn-nh3 at 2020-03-08 23:23
>>ゲート(インストの赤色部分)をダボとして埋め込むようにすると楽かも?

あー。それいいアイディアかも。ゲートから極小極薄のパーツを精度良く切り離すのはかなり大変で、これならエッチングパーツ組み立ててたほうが楽かもと思ってしまうぐらいだから。

ゲートを残したまま切り出すなら、そこをピンセットで掴んでパーツの積層痕の処理にも楽だし。
どうせならゲートが角柱ではなく丸柱になってたらよかったのに、そしたら車体側に同径のドリルで穴を開けるだけですむし。

しかしここまでの小さいパーツろなると、プリントの解像度のさらなる向上が望まれますね。クランプのハンドル部分のエッジが少しぼやけた感じになってしまってるのが惜しい。K59なんかの極小レジンパーツの精度に比べると..
Commented by デビグマ at 2020-03-14 01:44 x
情報共有したくて本日秋葉原に行きましたが、ドイツ製のクランプはすでに見当たらず。米軍のベルトのほうは買う予定ではなかったんですが、つい購入しちゃいました。パーツの切り出しが結構シビアそうで、ビビッております~
Commented by hn-nh3 at 2020-03-14 05:41
米軍のベルトも買いましたよ(^^) これも素晴らしい精密度ですが、革ベルトのフィット感を工具ごとに調整しないと悪目立ちしそうで、使い方には気をつかいそうです。

クランプの切り出しかたがMSmodelさんのページに掲載されましたね。
https://www.msmodelswebshop.jp/page/105

一度、ゲートを根元から丸ごと切り取って、裏返してニッパで一気にクランプを切り離す、という方法を提案してます。
by hn-nh3 | 2020-03-08 08:31 | 資料 | Comments(8)