鋳造と圧延(Valentine Mk.Ⅶ vol.2)

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1. 車体前部鋳造パーツへの改造(後編)
バレンタイン戦車 Mk.Ⅶ 製作その2。前回に続いてこのタイプの最大の特徴である車体の鋳造パーツの表現です。
Mk.Ⅱ/Ⅳでは圧延鋼板をリベット接合していた車体前部が鋳造一体型に変わったため、操縦席前面の装甲の位置で側面の装甲板にジョイントが設けられています。このディテールはフェンダーや履帯に遮られてなかなか見えないのですが、工場で製作中の写真などで確認することができます。

模型としては、継目となるラインをスジ彫りして、リベットをチマチマ植えて、車体前部の鋳造装甲と後部の圧延装甲板のテクスチャーの違いを表現してみました。鋳造の表現は、ラッカーパテを塗って硬い筆でポンポン叩いてテクスチャーをつけるのが一般的ですが、それはやりません。もっさりした感じになるし、シンナー臭いし。
使うのは瞬間接着剤。表面に塗って爪楊枝の先でぐりぐりと表面を擦ってやると、表面がガサガサに固まって鋳造肌のような感じになります。

圧延装甲板は流し込み接着剤を塗って、硬いブラシで叩いたりして鋼板の圧延時の傷やヘコミを表現してやります。まあ、本当のことを言えば、パーツを抑える指の下に接着剤がまわってしまって指紋の跡が残ってしまったのをペーパーかけて均しただけなんですが...

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車体前部上面と操縦席前面も同じように瞬間接着剤+楊枝グリグリで鋳造肌を表現。
Mk.Ⅶでは操縦席の窓の周りがリブ状に盛り上がった形状になっているので、プラペーパーを貼って表現。クラッペを受ける軸の部品も形が単純になっています。装甲バイザーは回転軸の上面にドリルで穴を開けてプラ棒を埋め込みました。

この装甲バイザー。前線で待機あるいは放棄された車両の写真を見ると、だいたい開けっ放しになってるようです。窓にはちゃんと防弾ガラスもあるとはいえ、弾が飛んできたら怖いから閉めたくなるような気もするけど、ペリスコープだけでは操縦しにくいのかしら。

模型の装甲バイザーも開けたり閉めたり動くようにしてあるのでけど、実は閉まりません。窓周りの縁の張り出しが邪魔して閉まらないのです。回転軸をずらずか、バイザーの干渉する部分を削ったりする必要あり。
実際、どうしてたんでしょう。当時の工場長に聞いてみたいところ。

2. 装甲板の厚み
この鋳造パーツの前面部分がひょっとすると増厚されているんじゃないか?と前回の記事で書きましたが、気になって少し調べてみました。オスプレイ本の記述でこんなの見つけました。

装甲板についてのリストの中に、" Specification,14 April 1939 / 60mm basis (60mm rolled or 65mm cast "
という表記がありました。つまり、装甲板は60mmを基準として、圧延鋼板の場合は60mmを使用、鋳造の場合は65mmとする、というような仕様が定められていたことが伺えます。
同じ表の中に、砲塔の防盾部分は" 65mm " となってます。防盾は鋳造パーツですから、この仕様基準に倣ったものと言えます。とすると、圧延鋼板では60mmで作られていた前面装甲板を鋳造パーツで製造する場合には65mmにする必要があるということになります。、Mk.Ⅶの欄に装甲厚が変更になった表記はありませんが、オタワに残る実車の牽引フック脇の段差や、この仕様基準から考える限りは、実際には増厚されていると考えるのが自然です。

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図版はWikimedia commonsから。

鋳造装甲の厚みの話。本題はMk.Ⅶの前面装甲板のことではありません。これは模型的にはどうでもいいんです。
やっぱり気になってたのは砲塔です。上記の図版を見ると、砲塔前面の防盾パーツは65mm、側面の円形の装甲板は60mm、後部の張出部分も65mmとなっています。オスプレイ本でも65/60/65mmとなっています。

これでわかりました。砲塔の前面と後ろのパーツは鋳造で作られたものですが、側面の円形の装甲板は圧延鋼板で作られている、ということです。(タミヤのキットには同じような鋳造表現が施されてはいますが..)

Commented by デビグマ at 2017-04-29 22:15 x
はじめまして。バレンタインの記事につられてやってきました〜鋳造のカナダ製バレンタイン、いいっすね!自分の中では謎のバージョンでしたが、ネットでは結構転がっているんですね。続きを楽しみにしています。
Commented by かば◎ at 2017-04-30 00:52 x
オスプレイ本に、砲塔側面は圧延鋼板なのか鋳造なのか書いていないかどうか探してみたのですが、見つかりませんでした(英語がスラスラ読めるわけではないので斜め読みですが)。

「厚みから考えて側面は圧延」という考察はなかなか説得力があるように思いますが、一方で、博物館車両の砲塔表面を見ると、圧延鋼板と考えるには荒れすぎているようにも見えます。もしかしたら、単純に「側面だから薄くしておこう」という可能性もあるのでは……。いやいや、側面板だけをみれば、わざわざ鋳造で作るほどの複雑な形状はしていないしなあ……。謎です。

ちなみに、Mk.II/IVの砲塔の場合は、前後と側面の装甲厚の違いがそのまま段差となって出ていますが、カナダ製の一体砲塔の場合は、側面の厚みが増すことで段差がなくなってるんですかね?
Commented by hn-nh3 at 2017-04-30 06:34
>かば◎さん
オスプレイ本を流し読みをした限りは砲塔側面には圧延鋼板を使ったとかの直接的な記述は見つかりませんでした。(拙い英語力で見落としてる可能性もありますが...)
ただ、側面装甲と後部部品との微妙な段差とか、同じ車両でも砲塔前後部パーツと側面の鉄肌に違いがあるとか、「同じ鋳造部品には見えない」のも事実。

しかし圧延鋼板だとしても、どんな工場に発注したの? という荒れ具合ですし、やっぱり鋳造だとしたら、コッチの部品は川口のA鉄鋼所..ココは川崎のB製作所..という感じの水平分業があったのか..??
Commented by hn-nh3 at 2017-04-30 06:57
>デビグマさん
こんにちは。コメントありがとうございます。デビグマさんのサイトはよく見に行ってました。以後、よしなに ^ ^)

レンドリースで送られたバレンタイン。カナダ製の鋳造バージョンは、イギリスからのMk.Ⅱ/Ⅳの倍ぐらいの数が送り込まれていて、当時の写真もよく見ると半分以上はカナダ製の特徴が見つかります。Mk.Ⅱ/Ⅳにしても現地改造の増加装甲タイプになってたりと、タミヤのキットのような純正仕様のものが以外なほど少なくて、それがまたモデラー的にはおもしろいところです。
by hn-nh3 | 2017-04-29 20:26 | valentine戦車 | Comments(4)