断片的思考のメモ


by hn-nh ( or hn )

T-34 & PANTHER

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前回の記事でのグリレの38t系誘導輪をヘッツァーのものに換える試みは、38t系とヘッツァーでは車輪径が異なるので基本的には互換性を欠くものの、車軸やハブは38t系の仕様を踏襲していたのではないかと考えて、隣接する転輪との干渉や履帯枚数の変更がなければ換装しても問題は起きないだろうと思っての話。

この転輪換装のヒントになったのが、T-34にパンターの転輪を履かせて使っていた事例で、今回はそれを少し検証してみます。

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大戦末期、ベルリン侵攻の頃になるとソ連軍の補給線も伸びきって、予備部品が不足したのか、転輪が外れたまま使っている戦車の写真を見かけたりします。(写真出典:waralbum.ru/35949/

T-34/85とSU-85の写真は1945年5月9日、ドイツ国境付近、チェコのウースチナー・ナド・ラベムという街で撮られたもの。この車両群を見て驚くのは、パンターの転輪を混ぜ履きしていることです。T-34/85は第2、4転輪、SU-85は第2、3転輪にそれぞれパンターの転輪を流用しています。
写真出典は、Recycled Panther Wheels より。かば◎さんに教えてもらいました。写真には、わかりやすく星をつけたり加工してます。

車輪の直径はT-34のディッシュ型転輪が830mm、パンターが860mm。半径にすると違いは15mmなので大きさ的には全く問題なさそう。同じT-34でもディッシュ転輪とは直径が違う鋼製転輪を混ぜ履きしてたくらいだから、走行に支障がない限りはノープロブレムという話なのか。

サイズ的には似た転輪を違う戦車に履かせる場合、問題となるのが、車軸とかハブとかの互換性。38tとHetzerのように同じ系列の工場で生産されたものであれば、ベアリングやボルトなど部品の互換性はありそうですが、T-34とパンターとなると、そもそも製造された国自体が違うので、そんなに簡単に嵌るのかという気もしますが。

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検証図を作ってみました。転輪の断面図を同縮尺にして重ねてみたら、面白いように一致しました。

事例の写真でパンター転輪にもT-34のハブキャップを使っているのが肝です。ハブキャップがT-34用だとすると、ベアリングが納まるハブもT-34のものを使っていると推測するのは容易です。となると、パンター転輪はいわゆるアウターのホイール部分だけ使って、ハブにどう固定するかだけを考えればいい話になります。

T-34のディッシュ型転輪はゴムをはめる外周リングにプレスされたディスク部品を溶接して、ハブの中央にあるリング状のフランジに2枚合わせのディスクをボルト固定する構造になっています。MiniArtから昨年リリースされたT-34系転輪は、ディスクの溶接痕と2枚合わせの部分にボルトの軸が再現されてましたね。
ちなみに初期型のディッシュ型転輪の場合は、ディスクのボルト固定部に円形のリングをかませているようです。ボルトが一つぐらい緩んでもガタつかないようにする配慮でしょうか。後期型の転輪になるとこのリングは省略。

※作図上、引用したT-34の転輪断面図が初期型のリングをかませるタイプになってますが、写真の事例では後期型タイプでリングを使わない固定法でパンターのホイールを嵌めていると思われます。

しかし、パンターの転輪。T-34の転輪ハブのフランジ部分に奇しくもすっぽり嵌るサイズだったのは驚き。パンターは開発段階でT-34をコピーしたものとは聞いてますが、まさか転輪のサイズまでそっくりコピーしたということではないのでしょうが、このフィット感はいったい何? 

さすがにボルト穴までは一致しなくて、T−34が6穴ボルトでパンターは8穴ボルト。だから、パンターのホイールをT−34のハブに取り付けるには、ボルト穴を開けなおす作業は必要。でもこのくらいの加工なら、前線の野戦修理工場でも十分に対応できそうです。


追記(9/11)
修理工場で撮られた写真を見つけました。(→ Легендарный т-34-85 )
この写真で見ると、パンターのホイールの8つのボルト穴のうち2つを生かして、残りはT-34の車軸ハブのフランジの6つのボルト穴に合わせてホイールに穴を開け直しているようです。
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その他、本文で掲載したT-34/85とSU-85の写真の解像度の高い写真
やはり、パンターホイールのボルトはハブに合わせて6つ穴に開け直されているように見えます。
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Commented by かば◎ at 2017-09-10 14:54 x
「まあ、なんだか適当に擦り合わせて使っているんだろうな」くらいに思っているばかりで、こういう検証は初めて見た気がします。

>>転輪の断面図を同縮尺にして重ねてみたら、面白いように一致しました。

本当に面白いですね。あくまで出版物の図面レベルの話なので、本当にそこまでピッタリなのかどうかは判りませんが、少なくとも「小改造で流用できそう」レベルなのが判ります。

写真では拡大してもよく判りませんが、軸周りは6つボルトになっているでしょうか?
(ハブ軸フランジのほうを8つ穴にする、という方法も考えられなくはないわけですが)
Commented by かば◎ at 2017-09-10 15:01 x
ところで今頃気付いたんですが……。

このSU-85、右側の履帯が切れてるように見えませんか?
(写真それ自体は歩兵が鈴なりで進撃中、というシーンなのに)
Commented by hn-nh3 at 2017-09-11 06:18
検証するほどの価値のある話かは別として、試しに図面を重ねてみたら予想以上に面白かったもので記事にしたてた次第。
ご指摘のように参照図面の精度の問題はありますよね。本気出して検証するならオリジナルの製作図かホイールの実物を手に入れて.... パンターホイール、125ドルで売ってましたよ。かば◎さんもおひとついかが?(笑)

取付穴の問題は追記として追加情報アップしておきます。
Commented by hn-nh3 at 2017-09-11 19:02
>>このSU-85、右側の履帯が切れてるように見えませんか?

ん?履帯切れてる... 擱座した戦車に鈴なりで代車待ち?
5月とはいえ朝の冷え込み未だ厳しく、降りて待つよりは暖気運転中の戦車の上でぬくぬく...( 君たちは猫か!)

解像度の高い写真で確かめたら、切れてるのではなく、何か白っぽいものを踏んづけてるようです。...履帯が切れてるのを否定できるほどの確証はないのですが(笑)
Commented by セータ☆ at 2017-09-11 20:47 x
この「パンター転輪を装着したT-34系車両」ってしばしば「ソ連軍は何でもアリ」的文脈の中で例示され、中には「撃破したパンターから取り外して記念に付けた」なんて記述もチラホラ。でもコレ、ちゃんとクビンカで性能試験してるんですよね。

ロシアの雑誌『タンコマスター 04/2002』のマクシム・コロミエッツ氏記事によれば、1945年3月23日〜4月10日まで「T-34-85のT-V戦車転輪の試験」としてクビンカにて実証試験(600kmの走行試験含む)が行われたそうです。結果は「純正転輪より信頼性は低いが、軍修理ユニットにて交換が可能」ということでした。

実際に「パンター転輪を装着したT-34系車両」がどれだけ存在したかとか、誰が言い出したかとか現段階では詳細は明らかになっていませんが、パンター転輪は撃破&鹵獲した車両から取り外したものではなく、解放占領した地区の工場からスペア部品として大量に押収したものの可能性があるのだとか。
パンターなんてそうそう頻繁に出くわすほど居ないでしょうから、たまたま占領工場からまとまった数量が手に入り、その活用を模索した…と考えた方が信憑性はありますね。
なお、修理中の写真は「第4移動戦車修理工場」による撮影だそうで、実証試験を上申したのも同工場である可能性が高いのだとか。
移動戦車修理工場は人員数500〜1,000名からなる規模の組織で、少なくとも「前線の部隊が独自の思いつきで作ってみた」…というものでは(当然ながら)無いようです。
Commented by かば◎ at 2017-09-11 23:03 x
>セータ☆さん

>>少なくとも「前線の部隊が独自の思いつきで作ってみた」…というものでは(当然ながら)無いようです。

なるほど。

よくよく考えると……。
最初の2枚の写真は「純正品」の転輪がすべてディッシュタイプですが、「追記」のほうの1枚目の写真はすべてスパイダーウェブタイプ。
スパイダーウェブ転輪のほうは軸周りが別体ではないので、この車輌がもともとは全てスパイダーウェブを使っていたとすると、「たまたま転輪のリム部が大きく損傷したので、パンターの転輪ででっち上げて修理した」とは考えづらいですね。
T-34の転輪軸周りと、パンター転輪を使ってある程度まとまって作られたものが「修理交換用パーツ」として出回っていたというのはしっくりきます。

>hnさん

>>切れてるのではなく、何か白っぽいものを踏んづけてるようです。

いやいや、こちらも考えてみれば、もしも本当に切れていたら、誘導輪から履帯が真っ直ぐ垂れているかしないとおかしいですよね。
Commented by hn-nh3 at 2017-09-12 06:57
パンターの転輪をガイドに現場合わせでハブに穴を開けるのではなく、ホイールに穴を追加するとなると、穿孔用のテンプレート板を用意しないといくつも作るの大変だなーとか、手間かけて作るより壊れかけたT34を部品取り用にして転輪を流用したほうが早くね?とか、腑に落ちないことがいくつもありましたが... なるほど! まとまって手に入ったパンターホイールの活用方法だったと考えると、合点がいきますね。しかもクビンカで実証試験までされてたとは。
セータ☆さんありがとうございます!

パンターホイールの活用方法....
裏返して巨大しゃぶしゃぶ鍋とか囲んでジンギスカンパーティとか、アンナミラーズの制服着てパンターホイールにパンケーキ乗せてお客さんに届けるとか..
by hn-nh3 | 2017-09-10 13:39 | 資料 | Comments(7)