OVMは何色だったのか(後編)

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大戦中のドイツ軍戦車のOVMは何色で塗られてたのか、という話の後編。

前回の記事:”OVMは何色で塗られていたのか(前編)”では、大戦後半に車体基本色がダークイエローに変更になった以降のOVMを検証して、OVMもイエローベースの仕様になっていたことを確認しました。

今回は、大戦前半のグレーベース車体の時の事例を含めて考えてみます。

上の写真は1939年、ポーランド戦にてワルシャワで勝利のパレードを行った時の写真。車体後部のマフラーは排気の熱でいい具合に錆色になってます。その上の牽引ワイヤーは、土埃で鉄色なのかグレー塗装なのかは判別不能。車体側面のエアインテイク上部にあるクリーニングロッドは木部はニス仕上げ。


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1941年6月、ロシア。バルバロッサ作戦時の写真と思われます。グレーベースの車体はOVMの色の確認が難しく、鉄部を黒色で仕上げたいわゆる鉄色なのか、車体色にあわせてグレー塗装を行っているのかの判別がつかないのが実際です。この写真も土埃を巻き上げて、フェンダー上のジャッキや車体後部側面のバールが何色なのかを判断するのは不可能。

鉄色のままだったとしても車体色とのコントラストも少なく、土埃を被って車体と色が同化しやすいこともあり、実際現場でもカムフラージュということではあまり問題にはならなかったと想像します。


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1941年、冬の東部戦線。Ⅳ号戦車F型の車体の埃が雪(雨)で流されて各部の色が明瞭になっています。正面の予備履帯も鉄錆色でドイツ戦車の模型の塗装見本、という感じ。車体前部のミッションアクセスパネルの上にシャベルが載ってます。木部はニス色、鉄部はグレーではなく黒色塗装が剥げて鉄の地肌が見えてきている質感が確認できます。

フェンダー上に装備するジャッキが失われてしまっているのは惜しいところ。ジャッキは車体にあわせてグレーで塗装されていたのか、黒色塗装など工具とあわせた塗装だったのか確認したかったのですが..
車体側面アンテナケースの下に予備履帯がフェンダーに3つ装着されてますが、他の履帯のようには錆びてないのは注目すべきところ。防錆処理が行われてますね。グレーで塗装されてた可能性もあります。


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渡河中の3号(H)潜水/指揮戦車。いい写真です。水に濡れて木部のニス色がくっきりと見えます。鉄部ははっきりしませんが、おそらく黒色塗装でしょう。フェンダー上に装着している予備転輪がレッドプライマー塗装のままになっているのも興味深いところ。


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この頃のグレーベース車体に積まれたOVMは概ね、こんな色調だったんじゃないかと推測します。
鉄部は黒色塗装で防錆処理。木部はニス色。写真のシャベルはオリジナルの状態かは不明ですが、使い込まれるうちに鉄部の地肌の金属色が見えてきたりして、いわゆる模型の鉄表現に近い感じになると思われます。

装備品の色に関してはこんなサイトも参考になります。>ドイツ軍軍装品の塗装色
そのサイトでワイヤーカッターも見れます。>車載用大型ワイヤーカッター
ワイヤーカッターに関しては鉄部は黒色塗装、ハンドルの部分は木ではなくてベークライト。模型では他の工具の木部の色とは違えて表現するといいと思います。

大戦前期のOVMの鉄部が車体と同じグレーで塗装されていた可能性は少なそうです。偽装効果を考えて車体色のグレーで塗るなら、木部も色をあわせてグレーで塗るはずですが、その事例を見かけません。
ただし、ジャッキは消火器同様、車体色で塗られていた可能性も高いと思います。明確に確認できる写真が手元にないので断言はできませんが。


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1942年のウクライナと思われます。この時期、アフリカ向けのサンド色の塗装を行った車両が東部戦線にも送られていますが、OVMの塗装は従来のままだったようです。写真を見ると、バールなど工具類は木部と鉄色の違いが認識できます。


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S字シャックルなどは既にイエローベースの塗装になっていた可能性もあります。右の写真は工場出荷時に撮影されたと思われるⅣ号F2(G)型ですが、アフリカ向けの塗装にうっすらとグリーンの迷彩。フェンダー上のOVMは車体色とは違う色調ですが、フェンダー前部のS字シャックルはノテックライトと同様、車体色でペイントされているのが確認できます。

その目で見ると、上のカラー写真のⅣ号戦車のシャックルもイエローベースのようにも思えてきます。


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ややこしいのはこの写真。新品のⅢ号突撃砲F型は明るい色調で塗られています。うっすらと迷彩が見えることからアフリカ向けのTropen塗装を送ったものがロシア戦線にも送られた車両だと思われます。

OVMの色はマチマチ。車体右側フェンダー上のハンマーは鉄部が黒。車体左側フェンダー手前の黄色の楕円で囲った部分にはエンジン始動用のハンドルがありますが、これは車体と同じ色。その後部のバール類とクリーニングロッドはまた違う色。クリーニングロッドは木のニス色として、バールの仕上げは黒でも車体色でもなく... これに関してはもう少しリサーチが必要。


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アフリカ戦線。チュニジアに送られた車両では、OVMは鉄色(黒)のままのものを使っているのを確認できます。アフリカ戦線では、装備品類もあっという間に砂塵にまみれてあっという間に白っぽくなってしまうから装備品にサンド色塗装を施す必要性は少なかったのかもしれません。砂地に岩や灌木類といった風景と既に同化しているようにも見えます。英軍車両の迷彩もサンド色と黒の組み合わせです。


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同じくチュニジアで輸送船から陸揚げされるⅢ号N型の有名な写真をトリミングしたもの。サンド色(Tropen1:RAL8000と7008の迷彩塗装?)に塗装された車体フェンダーの上には黒い色の工具類が搭載されています。チュニジアに車両が搬入された42年末〜43年初頭は、東部戦線南部ではサンド色の車両が送られていたものの、ヨーロッパ戦線の基本色はグレーのままだったので納入されるOVM類も鉄部は黒色塗装の仕様が標準だったと思われます。


1943年の2月に車体の標準塗装色がダークイエローに変更されますが、暫くはOVMの色はそのままだったように思われます。生産の始まったパンターD型の工場写真では木部ニス色と鉄部黒色の工具を搭載しているものが確認できます。OVMの工具の色にダークイエローが使われるようになるのはアフリカ戦以降、クルスク戦やイタリア戦の頃かと推測してます。


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1943年9月、イタリアはサレルノ付近。第16戦車師団のⅣ号戦車G/H型。ダークイエローの単色塗装の車体の泥除けフェンダーがはね上げられた上にスパナが置いてありますが、車体と同じダークイエローで塗装されているように見えます。フェンダーの上に載ってる工具は土埃を被ったり光の角度で、ただ白くなってたり、光ってたりして明るく見えてるだけの場合も多いのですが、スパナの縁のペンキの剥げ具合を見ると、塗装色はイエローで間違いないでしょう。


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1943年夏、東部戦線。ボルトオンの増加装甲、エアフィルター装備のⅣ号戦車G/H型車体はダークイエローベースにグリーンかブラウンの迷彩をスプレー塗装。フェンダー上のジャッキ、工具類は車体と同色のダークイエロー。この車両は予備履帯も車体色でペイントされてます。


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イエローベースの工具の現存品の写真を見つけました。写真出典はココ:Kubelwagen/Schwimmwagen shovel

工具類の鉄部塗装が黒でなくダークイエローであるかはモノクロ写真でも判別は比較的容易なのですが、木部の塗装が実際どうだったのかは正直よくわからない部分でした。グレーベースの車体では工具の木部は明色で認識できましたが、イエローベース車体の場合、木部がニス仕上げでも木の地色が明るい場合はカラー写真でもはっきりとは区別がつかない場合が多く、果たして木部がダークイレローに塗られていたのか、あるいは塗る必要があったのかはわからないというのが実感でした。

この写真を見ると、木部もイエローで塗装された事例があったことが確かめられますが、工具全体をダークイエロー一色で塗りつぶしても、塗料の下地への吸い込みの違いか、鉄部より少し暗く見えるのがわかります。素材の違いによる塗料の発色の違いがモノクロ写真では色の判別を難しくしている理由だったのがわかりました。


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写真出典:PANZERWRECKS 4 P28 1945.1 フランス,ドイツ国境付近のH39

とは言え、大戦後半のOVMの色にはいろいろなパターンがあったように思われます。車体色にあわせて全てダークイエローに塗りつぶしているパターンの他にも、イエロー塗装のジャッキやシャックル類と鉄色の工具が混在していたり、ジャッキ類も再び暗色のものが使われている事例など探すといろいろと見つかります。特に大戦末期、車体の迷彩にグリーンやブラウンの面積比率が増えてくるとOVMの塗装もそれにあわせた例も見つかります。

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そのあたりの事例も追跡していくと面白いのですが、長くなるので今回はここまで。気が向いた頃に続編やります。


(※2021.05.08改訂:1942年のロシア戦線で見られるイエローベースの車体はアフリカ向けのサンド色が塗られていたと考えられています)




Commented by hiranuma at 2018-09-09 15:51 x
いまごろになって、読み返してみると貴重なレポートです。
1号戦車B型の塗装段階に入ってどうしようか色々と見ていました。消化器が一番のポイントだったのですが基本的には赤だったようでそれがダークイエローでオーバーペイントされていたのか単に砂塵にまぶされていたのかは明確な答えが得られていないのですが、赤く塗ってダークイエローで薄く透けるようにペイントしてみようかと思っています。
Commented by hn-nh3 at 2018-09-10 05:52
hiranumaさん、過去記事を見ていただいて恐縮です。OVMを何色で塗るか気にする人は多いようで、我がブログでも閲覧頻度の高い記事のようです。

アフリカ戦でも1941~1942年のリビアは記事ではフォローしてません。基本塗装がグレーのまま、現地で砂を油で塗りつけたもの、現地で砂漠色の塗装をしたもの、制式色のRAL8000ゲルプブラウン~RAL8020ブラウン、砂漠迷彩などなど、塗装にもバリエーションが多く、それに対応したOVMの色の検証には時間がかかりそう、という理由で避けてました。
火砲やトラック類はグレー塗装のまま使っていたケースも多いようですし。

なので、リビア砂漠での車載消火器の色を検証した訳ではないのですが、一般論としては、車内消火器は視認性を高めるため赤もしくはグレー(orグリーン)、車外装備の消火器は目立たないように車体色(グレー/ダークイエロー)だったと理解しています。車外消火器を赤く塗った模型の作例も見ますが、あれはOVMの塗装同様に模型的なデフォルメと理解すべき話なのかと思います。

リビア砂漠に送られた車両にゲルプブラウンなどで塗装済みの消火器が用意されたのかは検証の必要ありますが、消耗品なのでグレーや車内用の赤の消火器を代用する場合もあったかと思います。そのケースでは砂もしくは塗料で砂漠色に塗っていたと考えるのが自然でしょうね。
Commented by みやまえ at 2019-03-19 22:29 x
OVMの色で手が止まってしまう同志が!
記事、参考になりました。
現場でダークイエローに塗り直した車両とかって、
クルーが真面目かどうかで変わってくる気がします
几帳面に装備品を外してから塗り直す派と、
めんどいから外さないで塗っちゃえ派です。
ワイヤーロープは普通は芯が油を染み込ませた麻のロープでその周りに編んだ金属線な構造なもので、油がにじみ出てくるから塗ってもすぐ剥げちゃうかもです
Commented by hn-nh3 at 2019-03-21 05:41
模型的には「めんどくさいから..」派の迷彩塗装が楽しそうです。 ....OVMをつけたまま迷彩色をスプレーしたけど、戦場でスパナを使ったままなくしてしまって、「日焼けの水着の後のように」車体にスパナの形をした塗り残しが,,,,というようなことを表現すると、クルーの性格を見せることができるかな(^^)

>ワイヤーロープは普通は芯が油を染み込ませた麻のロープでその周りに編んだ金属線な構造

そうだったのか! 細いワイヤーなんかあっという間に錆びてボロボロになってしまいそうな気がしてたけど、そうならないのは芯に油分を保てるような仕掛けがあったのですね。とすると、ワイヤーロープは鉄の地色のままにして、履帯の錆び色とも違えてやるのがよさそうですね。
Commented by みやまえ at 2019-03-22 23:28 x
日焼再現は素敵なアイデアだと思います!セクシーですw
ワイヤーロープは、錆びるより、使っては丸めてのくりかえしで変な形がついたり、ささくれたりのほうが多い気がしますが、数ヶ月雨ざらしだと錆びると思います。
当時のワイヤーの防錆処理って、どうだったんでしょうね。
黒染めなのか、パーカライジングなのか、なんもしてないのか‥・・国によっても違ってるでしょうね。
Commented by hn-nh3 at 2019-03-23 07:43
MM世代としては、ワイヤーロープの色はメタリックグレイ、銃身はガンメタルで塗る、の一択ですね(笑)

ワイヤーロープの鋼線は素地か亜鉛メッキのどちらかでしょうか。
素地なら鉄色(公園の鉄棒のような使い込まれた鉄の色)メッキ品ならメタリックグレイっぽい色になるんでしょうね。
素地のワイヤーの場合でも端部のフックに掛けるタグアイ部分はメッキ処理してあるものを使っていると思うので、これを模型で表現するなら鉄色のワイヤーと亜鉛色のタグアイとに塗り分けになるかなあ。
by hn-nh3 | 2017-09-29 09:31 | 資料 | Comments(6)