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断片的思考のメモ


by hn-nh ( or hn )

8月のプラハ(1968)

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プラハと写真の話の続き。前回の記事(「5月のプラハ」)で少し触れた写真家 ジョセフ・クーデルカ。彼が1968年のチェコ事件に遭遇して撮影したものをまとめた写真集があったので、思わず買ってしまいました。2014年に東京国立近代美術館であった彼の回顧展は行った記憶がありますが、2011年に東京都写真美術館で行われた「プラハ侵攻 1968」の展覧会は未見でした。その時に合わせて出版された日本語版写真集(原典は2008年に発表)

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ジョセフ・クーデルカ Invasion 68 Prague /プラハ侵攻 1968 平凡社 2011刊

版形は31.8×24.6cm 厚み2.6cm 295 ページ。でかいです。
表紙はシルバーに黒のロゴタイポでまとめられて至ってシンプル、かっこいいです。大きさの比較で、机の中に眠っていた未現像のフィルムを横に置いてみました。と言ってもフィルムなんか最近使わないから、大きさのイメージが掴めないですね..

Amazonで中古本を買ったのですが、表紙に少し使用痕がある程度で美品。プレミアついて当時の価格よりも高いですが、それでも中身の質と洋書を買うこと考えたら、全然お買い得。

この本の出来事の前提として少し説明しておくと、1968年1月、ワルシャワ条約機構の一員として社会主義国だったチェコスロバキアで、A.ドプチェクがチェコ共産党第一書記に就任。「人間の顔をした社会主義」を掲げて、検閲の廃止や市場経済の導入など、「プラハの春」と呼ばれる民主化の流れが生まれます。改革はやがて体制批判など党の存在基盤を揺るがす話にもなり、波及を恐れたソ連が突如、同盟国であるはずのチェコに軍事介入。ドプチェクは拘束、モスクワに連行されてしまいます。

(以下、写真出典は全てこの本より)
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冒頭に当時のラジオ局の放送の内容。1968年8月21日の未明にソ連軍が国境を超えてチェコ国内に侵攻。暴動などソ連軍に占領の口実を与えるような動きをしないよう市民に呼びかけるなど、緊迫した状況を伝えてきます。チェコとスロバキアとの微妙な空気感の違いも読み取れて興味深いです。

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侵攻するソ連軍と国旗を掲げて抗議するプラハ市民。銃を持っての武力抵抗にエスカレートしなかったのは、ラジオ局の放送が功を奏したのか。ソ連兵の乗る装甲車はBTR-40でしょうか。この時代の車両にはあまり詳しくはないのですが、ミリタリーモデラーのブログとしてはその辺りも少し触れておきます。

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プラハを占領するソ連軍車両。車両はASU-85空挺戦車か。撮影したジョセフ・クーデルカ(チェコ語読みではヨゼフ・コウデルカ)は当時30歳、航空技術者の職を辞して写真家としての道を歩み始めたところで、ルーマニアでのジプシーの撮影旅行から前日に帰国してこの事件に遭遇、その後の人生を大きく変えていく写真を撮ることになるのです。

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夜が明けて現れたソ連軍。戦車はT-54/55。BTR-152装甲車なんかも写ってます。識別マークとして白いラインを車体に描いているのがわかります。

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抵抗するプラハ市民。バスのバリケードを突破しようとするASU-85の姿が当時のニュースフィルムにも残ってます。

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抗議のデモに向かう市民の車列。撮影はプラハ市内のCKD工場の裏だそうです。CKDと言うとドイツ占領時代はBMM工場という名前で38(t)戦車やHetzer駆逐戦車を作ってた場所ですね。ミリオタ以外にはどうでもいい話ですが

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デモ隊の運転するこの車はなんだろう? こういうの好きなんですが、知識がなくて車種がわかりません。

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抗議集会。長くなるので紹介しませんが、抵抗する市民の姿をクーデルカは克明に追っています。見開きで30×50cmの写真はとにかく圧巻。これらの写真は当局の目を盗んで西側に持ち出され、匿名の写真家の撮影したものとして事件の真実を伝える大きな役目を果たします。
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クーデルカ自身は1970年にイギリスに亡命。これらの写真が自分の撮影であると名乗ることができたのは、国内に残る父親が亡くなり家族への迫害の危険が去った後の1984年。ロシアでゴルバチョフのペレストロイカが始まったのが1985年だから遠い話ではないことに気づかされます

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トレーラーの落書き。モスクワに帰れ!というメッセージ。1968年のソ連軍侵攻、1938年ミュンヘン会談で決まったナチスドイツによるチェコ併合。大国の都合で翻弄される小国の歴史の哀しみが伝わってきます。

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チェコ事件を伝えるこれらの写真は、映画「存在の耐えられない軽さ」でのプラハの騒乱のシーンの考証に使われたそうです。
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「存在の耐えられない軽さ」監督:フィリップ・カウフマン 1988年製作 171分

ミラン・クンデラ原作の小説の映画化。自由の風が流れ始めた1968年のプラハを舞台にダニエル・デイ・ルイス演じる脳外科医のトマシュ(ただし無類の女たらし)と彼に恋をしてしまった写真家志望のテレーザを演じるのはジュリエット・ビノシュ。彼らも否応なく事件に巻き込まれてしまいます。
ニコニコ動画ですが、http://www.nicovideo.jp/watch/sm6119205
この動画の11分あたりから騒乱のシーンが再現されてます。当時のニュースフィルムと再現映像をつなぎ合わせて、ソ連軍の侵攻してきたその時、彼らが本当にそこに生きていたかのように見せてます。

深夜のプラハに戦車がやってくる映像はさすがにT−55は借りてこれなかったのかT-34/85が「代役」を勤めているのはご愛嬌ですが、深夜の痴話喧嘩の最中に突然地響きでテーブルのグラスがカタカタと音を立て始めて異変が起きていることを気づかせ、そのまま広場を埋め尽くす群衆と戦車のシーンに繋がっていく編集は見事。テレーザは夢中で写真を撮りまくり、取材に来ていた西側の記者にフィルムを託すくだりはクーデルカの姿がダブります。

映画のこのシーンの続き(http://www.nicovideo.jp/watch/sm6120939)では、少しネタバレになりますが真実を伝えるために撮った写真が当局によってデモに参加した市民の告発に使われます。西側の記者に託してニューヨークタイムズに掲載された写真が「証拠」として使われてしまうシーンはたまらなく切ない。

それにしても、この頃のジュリエット・ビノシュは可愛かったですね。当時、招待券をもらったとかでガールフレンドと試写会に行った記憶があります。レオス・カラックスの「汚れた血」に出演してた時もよかったな。
...こんなこと言ってると、歳がバレるのですが。

Commented by hiranuma at 2017-11-24 19:50 x
ターレのような乗り物が私も気になります。
14人も乗っています。
エンジン駆動だと思うのですがよく保つものです。
調べる術が無くて分からないのが残念。
タミヤニュースにのイタリア軍装備解説連でる車両の顔が良くて全部調べるには情報不足でスクラッチするほどでもないのですが、前面パネル:顔だけ作ったらどうか?という誘惑に引かれます。
それと近い感じですね。
Commented by hn-nh3 at 2017-11-25 04:56
基本寸法の押さえどころさえ分かれば、構造はだいたい想像がつくので、スクラッチはできそうですよね。足回りとかミゼットなんかから流用ができそうだし。
ただ悩ましいのは、このターレっぽい車両だけ作っても「ナニコレ?」となりそうだからソ連軍の白帯つきT-55とセットで作る覚悟が入りそうです。となるとプラハ市民にペンキをかけられた車両はT-55AなのかT-54なのか、とかまたそっちも考証沼にはまりそうだし..笑

築地市場のターレー。実は少し制作を始めてます。
で、パーツを検分するうちに、やっぱり考証沼に落ちました。
そんなこんなで今日もこれから築地市場リサーチに行ってきます..w
Commented by かば◎ at 2017-11-25 08:35 x
基本、日本のターレと同様の車輌ですよね。下が切れているのが残念ですが、この角度で左前輪が見えないので、たぶん三輪車ですね。

マイクロカーで検索すると、wikipediaで製造国別に出てくるのですが、こういう荷役用車輌は含まれていないので突き止められませんでした。

ちなみに前面の「B.O. PRAHA STŘED 2」がなにか手掛かりになるかと調べてみましたが、STŘEDが英語の「センター」だとは判ったものの、となると鍵になるはずの「B.O.」が判りませんでした。「なんとかプラハセンター2号車」なんですよねー。

郵便局かな?とも思ったのですが、「チェコスロバキア郵便」だと「Československé pošty」のはずなのでB.O.にならないし。まさか本当に「プラハ中央卸売市場」とか?
Commented by hiranuma at 2017-11-25 11:18 x
築地でうまく取材ができるといいですね。
高速で走っているのでうかうかすると跳ね飛ばされますし、バージョン違いもあったり。レポート楽しみにしています。

B.O.は固有の名称の略だと思えるので突き止めるには当時のことが分かる現地の人でないと、、。
なんとかセンターらしき感じがするのでやはり市場で使用されていた車両なのでしょうね。
非軍事の車両もいいものです。
Commented by hn-nh3 at 2017-11-26 11:21
デモ隊の乗っている変なカート。リサーチは難しいと思ってましたが、前面のロゴがヒントになって、車種を特定することができました。
hiranumaさん、かば◎さんいつもありがとうございます。

Valkancarというブルガリアのメーカーの電動小荷物運搬カートで1957年よりチェコとソ連に輸出されていたようです。
現在の生産されていて、プラハにも代理店(or工場?): Valkancar Czがあります。
4輪の小型トレーラーですが、小回りがきくようにホイールベースを切り詰めた結果、運転席部分が完全にオーバーハングするというユニークなフォルム。(デモ隊の写真では運転手の右側でつかまり立ちする青年の足元に前輪が確認できます)

いくつかのバリエーションがモデルチェンジをしながら現在も生産されているようですが、写真のものはEP006の1960モデルかと推測します。
Wikipedia:de.wikipedia.org/wiki/Balcancar
IMCDB:www.imcdb.org/vehicles.php?make=Balkancar&model=EP-Series&modelMatch=1&modelInclModel=on

チェコ国内では電車の駅構内での荷物運搬に現在も使われているようで、そこから調べがつきました。「B.O. PRAHA STŘED 2」のB.Oが何の略語か判断できませんが、荷物預かりセンターというような意味かと思われます。日本だと空港のチェックインカウンターでスーツケース預けると飛行機まで運んでくれるアレですね。
WiKiに駅で使われている車両の写真がありました:commons.wikimedia.org/wiki/Category:Train_station_baggage_electrocarts_in_the_Czech_Republic
※プラハ旅行に行く人がいたら、駅で採寸してきて欲しいなー(笑)

クーデルカの写真に登場するカートは、市内の駅に集合したデモ隊が駅構内にあった車両を拝借して街中まで繰り出したものでしょうね。思い出せば、1945年のプラハ蜂起の時に未完成Hetzerを3両ほどゲットしたのも市内の駅だったような。駅に行けば必要なものが手に入る、という伝統があるのか..
Commented by かば◎ at 2017-11-26 12:36 x
おお! 素晴らしい!
よく調べがつきましたね。
しかし3輪じゃなく4輪でしたか。私の写真読み取り能力もたいしたことないな(笑)。
ロゴマークも、改めて見てみれば「ああ、横向きの鳥の翼だったのか」と判るのですが、最初は「十字型で、ロゴ自体がふくらんでるのかな?」なんて思ってました。
Commented by hiranuma at 2017-11-26 15:29 x
これ、作れますね!
リアの車軸の間のところ(モーターらしきものがある)をどうチョイスするか?を決めたら、人や周りのものと比較して大雑把な寸法は出せるでしょう。
デモの写真のものは黄色かな?
薄いグリーンかな?
ライトの枠を銀メタで決めたらピリリとするでしょうね。

Commented by hn-nh3 at 2017-11-27 06:00
>かば◎さん
Balkancarの飛ぶ鳥のエンブレムがかろうじて判別できるのが同定の決め手でした。しかしそれは結果であって、写真をそう思って見ないと情報が見えてこない、いつものパターンです。

三輪?と思い込んだ誤認が却ってよかったような気がします。最初は東独のトラバントやロシアのUAZを思わせるフロントフェイスばかり気になってしまってましたが、ターレのような構内用の運搬カートの類、ということをヒントに"Multicar"の類推からたどり着くことが出来ました。

>hiranumaさん
Balkancarのカートは後輪駆動ですね。"Balkancar EP006"で検索すると後輪の車軸にモーターが組み込まれている写真を見つけることができます。1960モデルずばりではなくてもシャーシとか駆動方式は共通する形式ではないかと。
ボディカラーはIMCDBの映像の事例などから卵色かと想像しますが、それ以上の根拠はないです。モノクロ写真から色を抽出する方法があればいいのですが...

>>ライトの枠を銀メタで決めたらピリリとする
そうそう、民生車はきらりとしたシルバーの表現がポイントですよね。メタリックな表現のノウハウに乏しいのが悩みですが、チャレンジしてみたいテーマです。
by hn-nh3 | 2017-11-19 18:19 | 写真 | Comments(8)