断片的思考のメモ


by hn-nh ( or hn )

SATELLITES

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1961年4月、ユーリィ・ガガーリンは、ボストーク1号に乗って地球の周りを一周、1時間48分の人類初の有人宇宙飛行のミッションに成功。
写真は地球に帰還した再突入カプセル。大気圏突入時の焼け焦げがリアル。
ソ連の宇宙船が戻ってくる時に、アメリカのアポロ計画のように海に着水するのではなく、ソ連南部(現カザフスタン)の草原砂漠に落ちるというのを知ったのはずっと後になってからだが、この写真を見てると別の惑星に着陸したSF風景のようでもあり、最新技術を駆使した宇宙船といえど物体を空にを打ち上げてそれが再び地上に落ちてくるだけというような妙な物質的生々しさを感じる。
旧ソ連のSF映画、例えば「惑星ソラリス」とか「不思議惑星キンザザ」に感じるざらっとした非日常感はそんなところから来てたのかもしれない。

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Satellites -Photographs from Fringes of the former Soviet Union:Jonas Bendiksen 2006

草原に舞う白い蝶と宇宙船の残骸。まるでSF世界のような不思議な写真に惹かれてこの本を買ったのはずいぶん前のことだった。落下してくる衛星の残骸と、そんな宇宙からゴミが降ってくる日常があるソ連の辺境地帯(衛星都市、衛星国家)、社会主義というイデオロギーで諸民族をまとめた実験国家の残骸。Satellitesという本のタイトルに何か響くものがあった。

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”Satellites -Photographs from Fringes of the former Soviet Union”

写真家 Jonas Bendiksen が世界の果てのようなソ連の周辺地帯の日常風景を撮り歩いた写真集。版形18.3×23.7cm 152P 出版 2006年

当時、5000円くらいで買ったような記憶がありますが、なんだかいつの間にかプレミアついてしまってますね。でも今は本を買わなくとも彼のサイトで掲載写真を閲覧することができるようになってます。
>Jonas Bendiksen Satellites

ロケットの打ち上げは赤道に近い方が有利なのだそうです。ロケットの加速に地球の遠心力を利用することで燃料を節約できて打ち上げの費用を抑えることが可能。だから大抵はその国の南側、例えばアメリカはフロリダのヒューストン、日本は種子島のJAXA宇宙センターなど、周囲に人家の少ない海の側にロケット基地を作っています。
ソ連は南側に海はなく、広大な草原や砂漠のある南部地域(現カザフスタン)にバイコヌール宇宙基地を作ってロケットの打ち上げと宇宙船の回収を行ってます。

スペースシャトルが退役して以降、ISSなど宇宙施設への往復は専らロシアのソユーズロケットが使われるようになって、帰りの宇宙船がカザフスタンの草原に着陸(落下)する風景はテレビでも目にするようになりましたが、打ち上げの際のブースターロケットなどの「宇宙ゴミ」も草原地帯に降ってくるということはあまり知られてない事実です。

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写真出展:Satellites -Photographs from Fringes of the former Soviet Union:Jonas Bendiksen 2006

この本では「宇宙ゴミ」の降る日常が写ってます。まだ燃料が残って炎をあげたまま落下するブースターロケット。残骸を金属屑として回収するブローカー。上の写真はどことなくファンタジックな風景にも見えるけど、またそれが日々の糧になっている現実。発がん性物質を含む有害なロケット燃料による環境汚染といった問題も。

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落下したロケットや人工衛星の写真集かと思って買うとある意味がっかりするのですが、この本の主題はそこではなく、旧ソ連の辺境のエリアだった場所で暮らす人たちの風景にあります。

辺境、周縁などという言葉を使うと、それは中央からの視点になってしまいますが、モスクワからは遠く離れて目の届かないような場所、見捨てられた街、世界の果てのような遠い現実のような風景。そんな世界の片隅もそこは紛れもなく現実。
ソ連崩壊後の民族運動と内戦、宗教的な迫害、国境地帯の麻薬の密輸。ロケットの落下する日常も。

バイコヌール宇宙基地は、初の人工衛星スプートニクやガガーリンの宇宙初飛行など旧ソ連の宇宙開発の輝かしい歴史を担った場所です。ソ連崩壊後、その地はカザフスタン共和国になったため、ロシアは年間1億6500万ドルを払って租借しているそうです。落下事故や環境汚染といった問題も抱えつつもカザフスタン国家にとってはいい家賃収入になっているのかも知れません。

ちょうど朝のテレビのニュースで日本人宇宙飛行士がソユーズで宇宙に飛び立ったことを伝えていますが、TVの向こう側の村ではまたいつもの天気予報のようにロケットが降っているのでしょうか。


by hn-nh3 | 2017-12-20 08:28 | 写真 | Comments(0)