断片的思考のメモ


by hn-nh ( or hn )

264沼(後編):T-60 (Plant no.264) vol.3


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前回の記事でT-60軽戦車、第264工場製の仕様の分析リストを掲載。今回は各部の仕様に関する考察をいくつか。冒頭の写真は、リストから漏れていた車両。角形の工具箱やゴムなしの460mmスポークタイプのアイドラーホイールなど第264工場製に見られる特徴をいくつか持っています。転輪はスポークタイプのハブキャップのボルトが3つのタイプ。砲塔のハッチはこのパターンからすると8角形ハッチの可能性が高いですが、写真では判断不能。
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第264工場製の車両は大きく2つのパターン。写真左の鋼製転輪+ゴムなし460mmスポーク型誘導輪、砲塔ハッチは丸型、操縦手ハッチは角の丸い一般的な形状。もう一つのパターンは写真右:スポーク転輪にゴムなし460mmスポーク型誘導輪(もしくはディッシュ型)、砲塔ハッチは8角形。運転手ハッチが角形ないしコーナーが45度に面取りされたタイプの可能性あり。

この両方の特徴を組み合わせたMiniartのキットのような車両の写真は未見。それぞれのパターンが並存するのは何となく理由がありそう。例えば「264工場」と言っても組立工場は複数あって、それぞれに調達した部品を組み立てるなど生産ラインが複数あったとか。あくまで想像ですが。

さて各論。まずは車体と足回り。
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Miniartのキットにもなっている第264工場特有の鋼製転輪の使用は1942年4月からなので、1941年12月から1942年4月まで(それ以降も)は第37工場で主に使われていた鋳造・スポーク転輪が多く使われてます。GAZ工場向けの部品を回してもらったのでしょうかプレス・ディッシュ転輪も使われていて写真の車両も混ぜばきしてますね。
前回の記事でアップしたリスト2のno.28の車両ですが、転輪のハブキャップのボルトが3本のタイプだと判別できます。上部転輪も全鋼製の3穴タイプ。このタイプはMiniartの第37工場製のキットに入ってます。転輪ハブキャップのボルト、上部転輪の穴が3と6の2つのバージョンから選択可能。

ボルトが六本タイプは砲塔や車体に増加装甲が施された頃に使用されているみたいです。セータ☆さんがアップしてくれたNo.23の車両の高精細な写真でボルト数が六本であることが確認できます。この車両は誘導輪にも転輪と同じものを使っていてちょっと悩ましい仕様。

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緩衝ゴムを内臓した鋼製転輪は1942年の4月に登場します。リスト1のNo.10の車両ですが、鋼製転輪とこれまた第264工場特有の仕様である460mm鋳造・スポーク誘導輪が使われています。鋼製転輪のハブキャップと上部転輪の穴の数までは判読できないのですが、Miniartのキットではハブキャップボルト3本、上部転輪3穴で再現されています。前記の鋳造・スポーク転輪と共通で調達された部品かもしれません。

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460mm鋳造・スポーク誘導輪は1942年の早い段階から使われているようで、鋳造・スポーク転輪を使用している車両でもよく見かけます。というか、そこが第37工場製車両との識別ポイント。

リストのNo.27の車両ですが、よく見たら転輪のハブキャップ。ボルト6本のタイプでしたね。
..うーん。ボルト本数が3から6本に変わるのは増加装甲を施す前後の時期かと思ってましたが、これを見ると必ずしもそうでもなさそう。

この車両の写真でははっきりしないのですが、第264工場では車体側面装甲板のジョイントが溶接接合になっています。上掲のNo.23の車両では溶接ラインがはっきりと確認できます。

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車体前部上面のミッション点検ハッチはキットでは3タイプ用意され、ボルト本数の違いが表現されてます。第264工場製のインストでは下の3−2−3ボルトのタイプを使うように指示がありますが、当時の写真でボルト本数まで判読できる写真がなかなか見つかりません。第264工場の車体製造ラインの写真が残ってますが、この写真を見ると上の4-2-4ボルトのタイプのハッチが使われていることがわかります。この写真で車体側面の溶接接合ラインもはっきりと確認できますね。写真のソースはココ:Танк со сталинградских окраин

車体下部前面のミッション固定用ボルトと後部の燃料タンク固定用?ボルトが生産のある段階からなくなることはセータ☆さんの記事で考察されてますが、その時期や仕様との関係がはっきりしないところもあってキットの制作では悩ましいところ。少なくとも前面のリベットは装甲増厚と関係しているようで、増加装甲の仕様を再現する場合は前面リベットのないタイプを選択して間違いなさそう。後部リベットがなくなるタイミングがどこか。砲塔の増加装甲のあるタイプでリベットなしを多く見かけるものの、リストのNo.13.14の車両は増加装甲は確認できないものの後部リベットはないタイプに見えます。

当時の写真では車両を前後から写した事例が少ないので、前後のリベットの有無の関係は博物館の現存車両から推測すると、前あり・後あり、前なし・後あり、前なし・後なしの3パターンになるのか。
そうした場合、例えばリストのNo.13.14のような車両の場合、後部リベットは確認できない車両で砲塔の増加装甲がないタイプ。車体前面の装甲増厚はないと判断して上記の3パターンにはない前あり・後なしという仕様になるのかどうか。

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リストを作っていて、第264工場製の車両では後部リベットが確認できないものが殆どだったので、ひょっとすると後部リベットなしが当初からの仕様だったのかとも思いましたが、見つけました。T-60のCANFORAのに掲載されていたNo.12の車両の高解像度写真で尾灯の脇にリベットが2つあるのが確認できます。車体前部のリベットについては上掲のNo.10の車両で確認できるので、鋼製転輪を装備の車両は当初、前後共にリベットがある仕様だったと推測。

操縦席や砲塔の仕様は装甲厚増強の問題と絡んで複雑なので、これはまた改めて考えてみることにします。
今回は、最後に気になる写真を2つほど。

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ヴォロネジ市街で撮影されたT-60。撮影時期は1942年7月頃か。砲塔の標準的な丸型ハッチ、ディッシュ転輪とGAZ製車両のようにも見えますが、誘導輪がゴムのないスポークタイプのものが使われていたり車体側面の装甲板がリベット接合ではなく溶接に見えることから想像するに、これは第264工場製の車両ではないかと。

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これもヴォロネジで撮影された写真。スターリングラード攻略の拠点として攻防戦が繰り広げられた街です。ここで撮影された一連の写真は、鋼製転輪・エラの削げた特徴的な砲塔を持つスターリングラード工場製のT-34が数多く投入されていたことを物語ることで有名ですが、その脇をウロウロしているT-60も同様にスターリングラード南方の第264工場製の車両と推測。砲塔ハッチこそ標準的な丸型ですが、460mm鋳造・スポーク誘導輪(ハブキャップ3本ボルト)や溶接接合の車体側面装甲板などなど第264工場製の特徴。

これらの車両、スポーク転輪(もしくはディッシュ転輪)なのに砲塔ハッチが8角形ではないので、第264工場製車両の標準的なパターンから外れているのですが、これがミッシングリンクではないかという気がします。
おそらく、生産開始当初は8角形ハッチはまだ存在せず、標準的な丸型ハッチの砲塔を搭載していたのではないかと。
その後、8角形ハッチが採用された砲塔の製造が始まり...とはいえGAZ工場向けの部品であった丸型ハッチも大量に届いてその在庫消化のための丸型ハッチ装備の砲塔の製造ラインも残され、その組立てラインには新型の鋼製転輪が届けられて..などなど。そんな想像もできます。


Commented by セータ☆ at 2018-01-18 21:43 x
実は車体前後の増加装甲板にも種類が有りまして…

A)車体前面の増加装甲板にミッションを留めたボルトが見られないもの(元の装甲板にもボルトは無いと思われる)。
B)車体前面の増加装甲板に丸穴が4つ空いていて、元の装甲板のボルトを回避しているもの。

C)車体後面の増加装甲板にミッションを留めたボルトが見られないもの(元の装甲板にもボルトは無いと思われる)。
D)車体後面の増加装甲板にスリットが3つ空いていて(左右・短,中央・長)、元の装甲板のボルトを回避しているもの。

D)に関しては第264工場車両にも見られます。画像を下にUPしました。
gizmolog.cocolog-nifty.com/photos/zl/264_ekhran.jpg

今度Miniartから出る増加装甲仕様は、後面の増加装甲板にもボルトがモールドされてますが、そういう仕様が在ったかどうかは未確認です(手一杯で)。

そんな感じで沼は限りなく深いです…(^^;)。
Commented by hn-nh3 at 2018-01-19 06:15
あーややこしい... 4つの丸穴の空いた前面増加装甲は何かの写真で見ました。てっきり「あれ?余ってた前面装甲を貼り付けちゃった??」と思ってましたが、それが B)だったのか。

砲塔の場合は、増加装甲貼り付ける歳に覗視孔周りは切り欠いてますが、例の逆三角形のリベットは隠してしまってますね。
...リベット頭を切り飛ばして溶接補修するなどフラットにしたのか、あるいは他工場と同様にリベットを使わない固定方法に切り替えたのか...

ドイツ戦車の場合は車内にネジ孔を切ったナット状のピースを装甲板に溶接で先付けして、それに装備品をネジ止めするような工法に切り替えてリベットやボルトが装甲板を貫通するのを回避してますね。
by hn-nh3 | 2018-01-18 12:46 | T-60軽戦車 | Comments(2)