断片的思考のメモ


by hn-nh ( or hn )

フェーディング1回目(油彩):T-60 (Plant no.264) vol.11

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T-60 (Plant no.264) 制作その11。基本塗装の上に油絵の具でフェーディング(退色表現)を行いました。
ウェザリング技法でよくドッティングなどど言われてる方法ですね。粘度の高い基本色(Ex.緑、青、赤、黄色、白..)を小さく斑点状において、ペトロールなど油彩用シンナーで薄く塗り伸ばして微妙な色階調を作り出す方法ですが、今回はロシアングリーンを明るくしたライトカーキグリーンともいうような色を作って2階調で薄く塗り伸ばしました。基本塗装の保護でクリアを吹いた時に少し色が沈んでしまったこともあり、明度を全体的に引き上げる目的もあったので、グリーン系の2階調で塗装色のニュアンスを調整しました。

同色系の絵の具でのフェーディングを行ったことに、もう一つの理由があります。いわゆる「カラーモジュレーション」は行っていないのですが、さすがに何もしないと模型的な押しが弱くなるので、光の効果を加味した色調整を同時に行いました。
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何もやってないじゃん...と言われればそれまでですが、天板を側面より明るく、砲塔側面下部や車体側面のフェンダー側などを反射光の表現で少し明るくしてます。さりげなく所作を感じさせない程度に。それとわかってしまうと光ではなく色になってしまうので... もう一回色を重ねますが、このあたりはまだ試行錯誤中。

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簡単な実験ですが、写真Aは白い物体を白い紙の上に直においたもの。写真Bは白い物体を紙から少し浮かせた状態。物体の側面の明るさを比べてみると、Aの紙の上に直に置いた時の方が明るくなっているのがわかります。比較用に写真Bの赤で囲った部分に同位置のAの部分を合成してます。明るさの違いが明確にわかると思います。

このように物体の側面はすぐ側の明るい面(この場合下に敷いた紙)からの反射光の影響を受けてほんのり明るくなります。

d0360340_15313785.jpg実験その2。反射光の影響がわかりやすいように下にオレンジ色の紙を敷いてみました。
オレンジ色の反射光が白い物体の側面をオレンジに染めているのがわかると思います。白い紙の上にある部分の側面は白いままです。このように物体の側面は周囲にあるものからの反射光にいつも影響を受けてます。

さらに詳しく観察すると物体側面の上部の方が下部よりオレンジ色が強く見えてます。下部の方が下のオレンジ面よりの反射光が強くて明度が高い状態なのでオレンジが薄く見えます。サンプルが小さかったので反射光のグラデーションがわかりにくいですが、物体側面は隣の明るい面との距離に応じて色と明るさが変化しています。

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ここからが本題。下手くそなデッサンですみません。
慣れない絵を描いた訳は、「カラーモジュレーション」について少し考えてみたいと思ったからです。実は現在流行している技法には少し懐疑的です。立体の面構成を強調するように色のグラデーションをつける方法は、確かに小さな模型の立体感を強調するには有効な技法ですが、濫用すると却ってリアリティを損なうような塗りかたに陥ります。

上の立体デッサンを見てみます。二つの白い立方体に左斜め向こうから光が当たってる設定。基本的には左の立方体のように3段階の明るさの違う面ができます。この明るさの描き分けは模型塗装にそのまま適用することはできません。模型鑑賞の光源の向きを固定しない限りは立体が破綻します。さらには色の明度の問題。左図では上面(1)は光が当たっていて白く見えてますが、側面(2)、そしてさらに暗い側面(3)は影を強調しようと色のトーンを暗くすると、結果として暗いシャドウ部分に塗られた色は基本色とは似ても似つかない沈んだ色彩になってしまいます。シャドウ吹きで煤けたような模型になってしまった人は多いはず。

この話は絵画の世界でも同じで、陰影を表現しながら色彩の純度を損なわないようにする方法として考えられたのが、右図ような影のつけかた。

人間の眼は隣り合う面の色の違いで立体を把握しています。その習性を利用して面の隣接する部分の明るさの違いだけ表現してやると、影になる面(2)と(3)の面全体をグレーで塗り潰さなくても立体が表現できます。影の面も白と感じられるような塗りかたができる訳です。左の立体の面(2)と(3)の影は下部がグラデーションが白いまま塗り残されてますが、先の反射光の話を加味して地面からの反射光で明るくなっていると解釈することもできます。

この明暗表現を模型の塗装に応用したのが「カラーモジュレーション技法」と言うことになります。その意味では基本色のトーンを損なわずに陰影を強調できるので便利です。模型塗装では、物体が小さくなると見かけの明るさが減光するのでそれを補うために色の明度をあげる必要があったり(スケールエフェクト)、屋外の自然光の強さを表現するためにコントラストを強調する必要がある訳ですが、そのために色を使って模型に光を描きこむのがカラーモジュレーションの原理だと思います。

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模型誌をパラパラとめくっていると、手法が目的化して光の効果から離れて面の塗り分けに注力している作例も見かけます。隣接面からの反射光が考慮されてないパターンも多いです。例えばフェンダーのつく車体上部側面の塗りかたは、側面のフェンダー際が暗くて上にいくにしたがって明るくなるような色調。現実世界ではそのような現象は起こらないのに、判をついたようにこの塗りかたが踏襲されてます。砲塔も側面下部が暗くて上部に向かって明るく塗られていたりします。

しかし実際はフェンダーと同様、砲塔側面の下部は車体天板からの反射光で明るくなります。砲塔の防盾下面も影の中にあっても車体からの反射光でほんのり明るくなっています。人間の顎の下が胸板からの光の反射で意外なほど明るいのと同じ原理。

話はこれくらいしておきますが、目的と原理から離れて、手法としての様式化が進むとどうしてもそういったことに陥りがちです。リアルの追求からは遠く、不自然で模型的な所作が繰り返されて...
まあ、習い事に共通することです。...剣道、茶道、戦車道。道と名のつくもの全て。

Commented by hiranuma at 2018-03-13 23:53 x
hn-nh3 さん

カラーモジュレーションの見解に賛成します!
一見するといい感じでも実際は違うよね、と思ったり。
ジオラマで見せるときと単品でみせるときでも違いますね。
どう見せたいか?どのように観たいか?は、作り手の意志
だから。
Commented by hn-nh3 at 2018-03-14 06:35
絵を描かれているhiranumaさんには説明するまでもない話でしたね。表現の世界ではリアリズムからの逸脱部分に作り手の「個性」があったりするから、突っ込むともう少し複雑な話にはなりますが...

ジオラマのように離れた距離で鑑賞する場合は、スケールエフェクトの補正も強めにする必要があったりするので、カラーモジュレーションに誇張表現があっても自然な印象になりますね。空間全体が作者の世界観にもなってきますし。

単品作品だと、近い距離から鑑賞することが多くなるので、誇張表現が不自然に感じられたり、暗色のベースに展示されたりすると本来は期待できる地面からの反射光が失われ、結果宙に浮いてしまった光の表現が不自然に見える傾向があります。
by hn-nh3 | 2018-03-13 18:00 | T-60軽戦車 | Comments(2)