断片的思考のメモ


by hn-nh ( or hn )

KVポケット (KV-1 vol.4)

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どれだけ写真を撮ったところで物の内側が映ることはない。空港の手荷物件でX線に通さない限りはスーツケースの中身も見えないのと同じで、人の内面だって何もわからない。だのにその人の顔の表情はいつも何かを映しているようで見る人の気持ちを惑わせる。

製作中のKV-1戦車はちょっとそんな迷宮に足を踏み入れてしまったようです。

d0360340_17585750.jpg右の写真の車両は強化型鋳造砲塔に42年型車体でエンジンアクセスハッチはフラットなタイプ。フェンダーには増設燃料タンクの固定金具がついてるのが確認できます。1941~42年型車体で見かけるエンジンデッキの点検ハッチをフラットなタイプに改造してみたのは前回までの話。 ...しかしこのフラットハッチ。生産簡易型というものではなく、通常のV-2Kディーゼルエンジンの供給不足を補うためにM-17Tガソリンエンジンを搭載した車両を特徴づけるハッチではないか、そんな解釈が近年の有力な説であることをセータ☆さんから教えてもらった。


d0360340_17512778.gif考えてみると、標準ハッチのドーム型の膨らみにはアフィルターが収まっていて、フラットハッチを使うためにはエアフィルターが他所に移動する必要がある訳です。しかし42年型車体のすべてがフラットハッチでもなく後継のKV-1Sではドーム型のハッチに戻っていることを考えれば、フラットハッチはエアフィルターの位置が違うエンジンが一時的に採用されたことによる限定仕様、と考えるのが自然かもしれない。40~41年の一時期、M-17Tガソリンエンジンを搭載した車両が生産されたという記録もこのフラットハッチの登場する時期とかぶってくる...


結局のところ、フラットハッチの内側がガソリンエンジンかディーゼルエンジンかは模型的にはどっちでもいいのです。中は空っぽ、プラスチックのハリボテですから。モーターライズでもないし。


ポケットの中にはエンジンがひとつ。ポンとたたけばエンジンは二つ。

しかし、見えることのないエンジンの問題から避けて通れない理由がひとつあって、それはフェンダー上の装備品の話。

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従来はフェンダーに筒型増設燃料タンクを搭載している車両がM-17ガソリンエンジン車とされていたようですが、近年はエンジンの種別に関わらずチェリャビンスク・キーロフ工場製車両に見られる装備、という説が濃厚。これもセータ☆さん情報。

確かに後継のKV-1Sで筒型燃料タンクが標準的な装備であることを考えれば、ガソリンエンジン車に限った装備ではないと考えるのが自然。もちろんガソリンエンジン車の場合、航続距離や補給の問題で増設燃料タンクがマストアイテムであった可能性はあるけど。

d0360340_18140426.jpg模型製作上の問題は、エンジンのハッチがフラットな車両にする場合、M-17Tガソリンエンジン車の可能性も考えて、増設燃料タンクを積んだ仕様を再現するのが妥当ではあるけど、右の写真の車両のようにタンクを積んだ形跡が見られない車両もあることをどう考えるのか ..未装備の訳は何か? あるいは取れてしまった理由は?..とか、悩みはつきない。

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試しにタンクを乗せてみました。キットには入ってない増設燃料タンクはドラゴンのT-34から流用が出来そう。ただしフェンダーへの取付ディテールを調べる必要あり。


d0360340_18380383.jpg増設タンク付き車両では工具箱は40年型から使われている大型のタイプを装備しているパターンが殆どで、これはKV-2のキットから流用できるものの、トラペのKV初期型のキットはフェンダー幅が間違っているらしく工具箱のパーツも奥行きが長くなってしまっているので、流用するには奥行きを切り詰める必要がある…. さてどうしよう。


フェンダー上の装備の問題は、最終的な塗装やマーキングをどうするかという話とも関わってくるので、問題先送りで未完成とならないようにするためには、どこかで腹を括って決める必要がありそう。

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とりあえず、エンジンデッキのメッシュを追加工作。キットにはエッチングパーツはなく、プラスチックの部品のみ。メッシュグリルのパーツは両サイドがかまぼこ型になったタイプと砲塔に近い側がフラットになったものの2パターンが選択可能。41年型車体では後者の片面フラットのパターンであることはボービントンやアバディーンの現存車両や事例写真で確認できます。

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Voyager Modelからエッチングのメッシュパーツが出てるので試しに使ってみます。メッシュは繊細で透過率も高くていい感じ。実車の写真を見ると、メッシュグリルの中間部にはリブがあってロッドで補強されている様子。リブも実際はもう少し複雑な形状と思われますが、メッシュ越しに見えるだけなのでプラ板で簡略的に再現。真鍮のパーツの枠内にプラ板で補強しながら組んでみました。

と、ここまではよかったのですが、車体に載せてみたら…..なんと両側のリベットの間隔より幅広で嵌らない…どゆこと?
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折り曲げたときの真鍮板の厚みが計算に入っていないのか、0.5~1mmほど幅が広すぎる。真鍮パーツなので削るのも簡単ではないから、本体のほうのリベットを移植して取り付けスペースを広げる? とも思ったけど、ミスのフォローでミスを重ねて取り返しのつかないことになりそうで思いとどまりました。

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はい、作り直します。実車の写真もガイドにしながら、メッシュグリルのリブのパーツ図面を修正して、プラ板で最初から作り直し。当然のことながらメッシュのパーツも幅広で使えないので、汎用品のメッシュから形を起こす必要あり。全て自作になるなら、アフターパーツなんかに頼らないで最初からスクラッチすればよかった。半月型のリブは多めに切り出して、精度がよくできたものを選んで使用。グリルの枠は0.5mmと0.3mmプラ板の細切りの積層。
JAPANミリテールでhiranumaさんが連載中のケッテンクラート超絶工作に比べたら、このくらいで悲鳴をあげてはいけないのだと思う。

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エンジングリルはとりあえずここまでリカバリー完了。後はメッシュを貼ってフレームを作らないと...

目の細かいメッシュは細い銅線を編み込んで.. なんてことはもちろんやりません。


※5/11誤記訂正:M-17ガソリンエンジンのM-17がF-17となっていたので訂正しました。


Commented by セータ☆ at 2018-05-09 23:39 x
KVのエアフィルターは、当初エンジンの上にありましたが、41年の始めに「KV,T-34とも新型エアフィルターを開発すべし」という通達があり、41年(後半?)頃にはエンジン後方の左右に振り分けられた新型に切り替わっています(名前URLでマニュアル画像に飛びます。上が40年型、下が41年型)。

エアフィルターが後方に移った時点でエンジンハッチの膨らみは不用になるわけですが、実際にはその後も膨らみハッチは使用されています。
hn-nhさんが記事中に貼った42年型の断面図で装着しているフィルターはマニュアルで言う「40年型」とは別物で、こういうタイプが一時的に(?)復活したのかどうかなど、ちょっと不明です。

KVのエンジンハッチの膨らみとエアフィルターの関係はワカラナイ部分が多いので、模型を作る分には適当に流しておいた方が良いかもですよ。
Commented by hn-nh3 at 2018-05-10 06:05
トラペのキットのボックスアートにもなっている3番目の写真の車両:冬季迷彩の塗り残し部分に黄色の戦術ナンバー(カレリア戦線)は増設燃料タンクと大型の工具箱を装備していますが、キットではそこはスルー。ハッチもドーム型の膨らみハッチのパーツが入っていて、知ってか知らずかこの問題はあっさりスルーしてますね。それが賢い大人の選択かもしれません...

フェンダー上の装備との関連がわかればと思ったのですが...
41年型エアフィルターの図版ありがとうございます。出典は分厚いKV本かしら? 結局、あの膨らみには何が隠されてるのでしょうね。 知らなくてよいことかもしれませんが(笑)
Commented by hiranuma at 2018-05-10 07:02 x
hn-nh さん

文中にわたしの工作についてコメントいただき恐縮です。わたしのは自分がやりたい様に見たものを見たままに作れるかどうかで、昔の油粘土で鉄人28号を作っていたのと同じなのです。その所為か型式の違いを超えて作ることがありヘンテコになったりしますから要注意です。
hn-nhさんやセータさん、かば◎さんたちの戦車のディテールに関する考証、調査力は素晴らしく資料価値の高いもので敬服してしまいます。

わたしもKV- I を作ってみたいと思いますが個人的にはKV-I のドームハッチの形が好きです。
1941~1942 (KV-1 vol.3)の下段の方の雪の中を進む後ろ姿の
KV-I 、後ろから見た丸いお尻が膨らんだ感じがいいと思います。
Commented by かば◎ at 2018-05-10 08:04 x
ハッチがフラットでもフェンダー上に筒型燃料タンクは乗っていない、というのは結構確認できる気がします。

また、筒型増加燃料タンクの前には箱型増加燃料タンクがありますが、これはハッチがドーム型か、フラット型か関わりなく搭載されているようです。

ところで、グリルメッシュは、アベールのやつはちゃんとキットのリベット列の幅に収まりますよ。
Commented by hn-nh3 at 2018-05-10 20:30
>hiranumaさん
小さなパーツを同じ形でいくつも作る、というのは加工誤差などスクラッチでのウィークポイントになるところですが、ケッテンクラートの精密工作を見て勇気付けられました。

KV戦車のエンジンパネルはドーム型ハッチのほうが抑揚があって模型映えしますよね。KV-2はそれで作る予定(将来計画)なので、KV-1はフラットなハッチにしてみました。
時間かけて見栄えのしないハッチに改造して何やってんだかという感じではあるのですが(笑)
雪中を進むKV-1の後ろ姿の写真は、これ見てこのタイプのKV-1を作りたいと私も思った1枚です。
Commented by hn-nh3 at 2018-05-10 20:44
かば◎さんの製作記事の写真で、アベールのグリルメッシュがきれいに収まっているのを見つけて、うぐぐーとなってました(笑)しかも、メッシュがリブをまたぐディテールもちゃんと再現してあるし! 早まってVoyagermodelの買うんじゃなかった(涙)

フェンダー上のタンクとエンジンアクセスハッチはいずれもどちらに紐付いているということではなさそうですね。時期がだぶるので何か関係があると思いたくなるのは考証の罠でしょうか。 件の角形ペリスコープも使用時期など事例を追いかけているものの、これもまた...
Commented by me20 at 2018-05-10 21:38 x
こんばんは。なんだかお知り合いが多い場所だとお聞きして…(笑)

トランぺッターのKV-2は12年前にアベールの砲身をフィットさせる段階で終わっているのを思い出しました。また作りたいですけど、皆さんと被るとヌルいのがばれちゃうな…。
因みに最近、アベールのトラぺKV-2用のPEが売れ残りで安かったので購入したばかりです。独軍用なので要らないパーツばかりですが…。

ボイジャーのPEはタミヤのセモベンテ用が酷く、まともに使えなかったので信用していません。パッケージは良い感じなんですけどね。
Commented by hn-nh3 at 2018-05-10 23:39
me20さん、こんばんは。未完成モデラーの吹き溜まりにようこそ(笑)

アベールのPEって使ったことないんですよ。なんだか高級品のイメージがあって。半田付けも敷居が高いですね。
昔は半田ゴテと真鍮で遊んでたりしたこともあって嫌いではないのですが...

しかしボイジャーのPEにはやられましたね。パーツの設計にも工夫がないというか。パッケージはいい感じなのですが...

グリフォンのPEはSdkfz.138 Grille Hと Grille M改造3cmFLAKの制作でそれぞれ使ったことありますが、よく調べたなという考証の確かさと、パーツ設計にもモデラー心をくすぐるアイディアがありました。
Commented by セータ☆ at 2018-05-10 23:54 x
フェンダー上の増設燃料タンクは常に乗せっ放しという訳ではなく、後方や行軍時には装備しているものの、戦闘が開始される前、車内タンクを満タンにした後には降ろしておく(又は燃料を抜いておく)…というような話を聞いた事があります。これはT-34も同様。

燃料が入ったタンクを剥き出しで乗せたままにしておくのは流石に自殺行為でしょうし。タンクデサントも「勘弁してくれよ」…と思いますよね。

戦後のソ連戦車では増設タンクから車内タンクに燃料を供給出来るように配管が繋がっており、また増設タンクは車内から投棄出来るようになってますね。この投棄というのも、空のタンクを投棄というよりも、燃料の入ったタンクをリスク回避の為に投棄するという感じじゃないのかなー。

あとこれは細かいツッコミですが、ガソリンエンジンは「M-17T」ですね。
Commented by かば◎ at 2018-05-11 02:56 x
済みません。
アベールのPEパーツについてコメントを書いたんですが、どうしても「禁止されているキーワードが……」に引っかかって書けません。何がダメなんだろう……。
(ちなみにPEを普通にカタカナで書くとダメらしい、というのは判りましたが、それだけではないようです)

というわけで、元の書き込みを端折って書くと、
アベールのPEにはKV用が各種ありますが、「KV-1用ベーシックセット」は要らない部品が結構多く、それよりもKV用グリルセットが必要最小限に近くオススメですよ、という内容でした。
Commented by hn-nh3 at 2018-05-11 06:27
>セータ☆さん
エンジンの誤記訂正しました。M-17のMはミクーリン(Микулин)のMですね。
gizmologの[ミクーリンM-17ガソリンエンジンの記事(gizmolog.cocolog-nifty.com/blog/2017/08/m-17-bac3.html)は読んでいたのですが...
「丸暗記はだめだ、意味を考えろ!」と何度も言われた高校生の頃を思い出しましたね。ミクーリンのM、覚えました。これで中間テストはOK

増設燃料タンクはT-34のものなど簡単に着脱できるディテールになってますね。それでも緊急時に身を危険に晒すことになるので車内から操作できるように進化していくのですね。
kunihitoさんの新作IS-3でもその辺りが素晴らしい解像度で再現されてましたね。
Commented by hn-nh3 at 2018-05-11 06:48
>かば◎さん
PEをカタカナで書くとコメントの禁止ワードに...(笑)
エキサイトのコメント制限はそういうことなんですね。PEパーツの加工ツールの名前も間違いなくアウトでしょうね...
戦車模型を語るに伏字は必要ないとは思うのですが、文字数制限(1000文字?)なんてのもあるみたいです。

アベールのKV用グリルだけのセットもあったのですね。しかも手頃な値段。 トランペッターのKVはキット本体の値段が2000円と良心的なので、相対的にアフターパーツが高く感じられます。これが本体価格が高額なキットだと感覚が麻痺して周辺パーツもついでに買ってしまえ的な気分になるから人の心理は不思議です。
Commented by かば◎ at 2018-05-13 18:47 x
「エンジン点検ハッチはドーム型なんだけれど、筒型燃料タンク付き」の写真が出てきたので、名前からリンクを張っておきます。

ちなみにこの車輛、鋳造砲塔ですが緩衝ゴム内蔵転輪、戦闘室前面増加装甲は背の低いタイプです。
(kv1ehkranami.narod.ruより)
Commented by hn-nh3 at 2018-05-14 12:43
>>「エンジン点検ハッチはドーム型なんだけれど、筒型燃料タンク付き」の写真..

筒型燃料タンクはエンジン点検ハッチのタイプに関わらず装備されていた、というのが確認できる写真ですね。このサイトは車両の生産時期別に写真が整理されていて、もっと早くに気付いていればという感じです。ありがとうございます。

タンコグラ本で鋳造砲塔でも緩衝ゴム内蔵転輪の車両があることは気がついてましたが、41年10月頃に一時的に見られるレアケースなのかしらと知らないフリしておこうかしらと思ってたら、このサイトの10~12月生産車とされる車両を見ていくと、緩衝ゴム内蔵転輪ばっかり....うーん、悩まし。

ChTZ工場/41年10~12月/ZIS-5搭載のページの車両をつらつらと眺めていたら、件の砲塔角形ペリスコープを左右両方に搭載している車両がありました。No.26の車両(http://www.kv1ehkranami.narod.ru/big-z41/big_kv1-z41-026-002.jpg)
法則性が見えない... 調べれば調べるほどわからなくなるロシア戦車の罠。
42年生産車のインデックスがないのが惜しいですね。
Commented by かば◎ at 2018-05-15 17:49 x
>>このサイトの10~12月生産車とされる車両を見ていくと、緩衝ゴム内蔵転輪ばっかり....

それは私も思いました!
もちろん、このサイトで書かれていない、この後の生産型では全鋼製転輪メインになるんでしょうが、
「鋳造砲塔乗ってても緩衝ゴム内蔵転輪、こんなにアタリマエにあるんだなあ……」
というのは結構目からウロコでした。

何はともあれ、このサイト、「同一車輛の写真をしつこく集め、撮影された日時・場所も特定している」というのがスゴイですね。
以後の生産分についても頑張って欲しいです。
Commented by hn-nh3 at 2018-05-15 22:29
24の写真(http://www.kv1ehkranami.narod.ru/big-z41/big_kv1-z41-024-003.jpg)の車両(緩衝ゴム内臓転輪)を見ると、車体前端のL型接合部材にボルト跡(6箇所?)があるように見えます。かば◎さんが事例であげていたモスクワ中央軍事博物館のKV-1では全鋼製転輪。

溶接砲塔と鋳造砲塔が並行して生産されていたように、転輪も時期がダブってる時期があるのかもですね。
by hn-nh3 | 2018-05-09 19:08 | KV-1戦車 | Comments(16)