断片的思考のメモ


by hn-nh ( or hn )

戦争のかたち

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既刊本の紹介。「戦争のかたち」(下道基行 著  2005/7 発行 リトルモア 20.8×14.6×1.6cm 120P )
かれこれ10年以上前になるが、北海道の十勝平野の海岸線に戦時中に作られたトーチカ群が今も残っていることを知った。軍事構造物としてはナチスドイツが大西洋岸に築いたアトランティックウォールの要塞群が有名であるが、旧日本軍が米軍の上陸に備えて北海道の太平洋岸に構築したトーチカはなんとも貧弱で、侘しく取り残された風景が気になってしまった。

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そのころに見つけて買った本です。紹介する画像はすべてこの本から。

2005年というと、Googleの画像検検索、気になる本はAmazonで購入というのが情報との出会い方として一般的になっていただろうか。発信の仕方も大きく変わっていった頃か。カメラではなく、携帯で写真を撮って、HTMLを知らなくても使えるブログにアップしたり。

著者は1978年生まれ、2001年に武蔵野美大油絵科を卒業。卒業後にピザ屋で宅配をしている時に偶然出会った戦争遺跡に衝撃を受けてカメラを買って旅に出た、ということだ。決して軍事研究者だった訳でもなく、写真家だった訳でもなく。

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d0360340_19495288.jpgだから最初に言っておくと、廃墟マニアやミリオタのための写真集とか、歴史遺産の記録資料といったことを期待すると、少し拍子抜けするかもしれない。カメラを生業とした作家の写真集、といった風情でもない。..もっともっと軽い、のである。

だから面白い。戦争を知ってるとか知らないとか、そういう話ではなく、日常に紛れ込んでしまった「日常のかたちではないもの」を拾い集めた記録。

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前回の記事で少し紹介した大阪の東淀川区、西淡路高射砲台はこの本に載っている写真で知った。住居として改造されたこの砲台跡に住んでいた人もその頃は健在で、著者が2004年にインタビューした記事も掲載されている。

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同じく前に記事で紹介した東京の葛飾区 白鳥の高射砲陣地跡逗子の披露山公園の花壇に改造された高射砲陣地も写真が載っている。キャプションは地名のみで詳細な解説がある訳ではないので、ひとつひとつの写真の印象は薄く、昨日ふたたび本を開くまですっかり忘れていたくらい。もちろんそれは写真としての強度云々の話ではなく、通り過ぎる風景のように、気になった時にまた出会えばいいのだ。それだけの話。戦争ネタだからと言って別に懐古趣味的に語る必要もないし反戦的なフリをする必要もないし。

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「戦争のかたち」の歩き方 という見出しで、遺構のある場所の地図も載ってる。トーチカ、砲台、掩体壕などなど、実際に見に行く人は少ないと思うけど、これは便利かもしれない。というかこのフラットなビジュアルが、この本に通底するトーン。

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遺構が転用されて住居や公園施設になっている事例をポップなグラフィックに起こして説明している。物件毎の固有のディテールを捨象してタイポロジカルに表現したビジュアルは、楽しいけど写真に対して必ずしも成功していないように思う。気分はわからない訳ではないけど。


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その黄色いページに載っている「砲台パーク」こと、大分県の丹賀砲台園地の現存する砲台内部。トップライト屋根と螺旋階段を作って見学施設とした空間は圧巻。これはちょっと見に行きたい気もするけど、GoogleMapで調べたら地の果てのような場所

これに限らず、よくもまあこんなところまで行ったな、というのが多いです。自分もいくつかは実際に訪れたことがあるからわかるのですが、写真というのは1方向的なものだから必ずしも風景をリアルに捉えたものではない、という気がするのも事実。しかし、この本、間違いなく「買い」ですね。

本に載っている写真やビジュアルの一部、砲台住戸の住人インタビューなど、著者のホームページで見ることができます。

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(写真は全て「戦争のかたち」下道基行 著 より)

Commented by かば◎ at 2018-09-14 19:41 x
上の披露山の写真は、展望台から花壇&入口方面を見下ろしたアングルですね。サイトの方には猿舎写真もありました。

普段見慣れた場所なのに、こんなふうに他の(見知らぬ)軍事遺構に並んで出てくると、急に何か別の場所のような錯覚に陥ってしまうのが不思議です。

それにしても十勝の海岸線のトーチカ群って……何から何を守るんだろう。
Commented by hn-nh3 at 2018-09-15 19:04
視線を少し外して風景を遠く捉えるような撮り方もあってか、披露山公園も知らない場所のように見えたりしますね。
Googleのストリートビューで見る自分の街、みたいな見え方。

北海道の海岸トーチカは十勝の他にも根室、先日の地震で大きな被害のあった苫小牧や厚真町の海岸にも点在しているようです。広大な海岸線にそれこそあっという間に制圧されてしまいそうな貧弱なトーチカ群を作って、果たして戦略的な意味があったのか...という気もしますが。

太平洋岸に集中しているのは米軍の侵攻に備えたものなのでしょうが、ソ連が北からやってくるという事態は全く想定してなかったのでしょうね。
Commented by at 2018-09-18 21:32 x
 こんばんは。良い本のご紹介、ありがとうございます。多くの軍事遺構は機能を喪い縁だけとなり風化して日常に馴染んで見えます。でも、こうして写真で切り取ってみると、なにやら異物感というかオーラがうっすらと立ち上ってくるようような。

 佐伯の遺構、確かに地の果てですね~。人口密度の多い地域では遺構も縁ばかりな感じですが、遠くまで行くと面白いものが残っているんだなあ。

>太平洋岸に集中しているのは米軍の侵攻に備えたものなのでしょうが、ソ連が北からやってくるという事態は全く想定してなかったのでしょうね。

 本邦では、偉い人に都合の悪いことは口に出すのはもちろん、考えてもいけませんし、ミッドウェーの図上演習のように無視できない場合には現実自体をズラすお約束です。
 過日の北海道の停電も2013年に経産省の会議で予想されていたとか。『例えば、北海道電力の最大ユニットが脱落した場合、北海道電力エリア内の周波数が大きく低下。この際、北海道エリアの系統規模を踏まえれば、この脱落に対して、周波数を維持できない。』https://www.occto.or.jp/iinkai/chouseiryoku/2015/files/cyousei_01_06_02.pdf 

 室蘭などへの艦砲射撃もありましたから、太平洋側の防備にも意味はないわけではないでしょう。一方で「ソ連からも攻撃されたら負け」だから”見ない”ことにしたのでしょう。「中立条約を延長しない」ことは4月には通告されていたので連合国のソ連の攻撃は必至でしたが、見ないふりで講和の仲介を懇願していたわけで。で、ソ連参戦で諦めて降伏ですから、太平洋側のみの築城は乏しいリソースの「選択と集中」なんでしょうね。まあ、大変な割にはお札を貼る程度の有難み、「やってる感」だったのでしょうが。
Commented by hn-nh3 at 2018-09-22 13:45
Lさんこんにちは。お返事遅くなりました..地球の裏側から失礼します。

北海道の大停電も予測されていた話、面白いですね。しかし教えていただいた資料を読んでも専門知識がないとちんぷんかんぷん(笑)
というか、そういうことなんですよね。情報として示されていても、欲しい結論に結びつくものしか「見えてこない」というようなことは全ての話に通じるのかと。ミッドウェイの事前シミュレーションもソ連の通告も。今にして思えば..ということばかり。

紹介した本は、その意味では遺構の現在的意味をあえて予断的な言葉として示さないという態度に貫かれているのかもしれません。買って損はない本です。

by hn-nh3 | 2018-09-12 22:04 | 資料 | Comments(4)