ノルマンディの迷彩(ロレーヌシュレッパー15cm自走砲の場合)

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SUMICONでは一足先に完成画像を公開したロレーヌシュレッパー自走砲。少し時間を戻して、この車両のユニークな迷彩についての考察、パターンの復元作業などのメモを残しておきます。

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ノルマンディに展開した第21戦車師団、第155砲兵中隊に配備されたロレーヌシュレッパー自走砲にはちょっと変わった迷彩パターンの車両。写真右のジグザクのパターンの車両は割と有名らしく、迷彩を再現したカラーイラストや、模型での再現もちらほらと見かけます。写真左のハードエッジだけどうねった曲線の迷彩の車両が今回の模型で再現したパターン。モノクロ写真ですが、コントラストから想像すると、車体下部はダークイエロー、上部はグリーンとブラウンの雲形をダークイエローが縁取っているものと思われます。

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幸いなことに、左右側面、後面の一部のパターンが記録写真に残されています。PANZERWRECKS 8 にクリアな写真が掲載されていて、そこから車両の過半の迷彩パターンが復元可能。

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こんな感じでイラストレーターで迷彩パターンを復元してみました。黒いドットを重ねた部分は写真で見切れている部分、車体の損傷や汚れなどで判然としない部分で想像で補った部分です。戸惑ったのは車体の左右でパターンの図柄でかなり違いがあって、車体左面上部の損傷を受けている部分が実際にどんなパターンだったのかは正直よくわからず、完全に想像の領域です。

それにしてもどこか、ドイツ戦車というよりフランス戦車の迷彩パターンに似ている、ような気がする。

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この時期のノルマンディのドイツ軍車両に多いパターンはもやもやっとした細吹きラインの三色迷彩ですが、第21戦車師団、とりわけA.ベッカー率いる部隊の仏軍中古車両を改造したものには変な迷彩パターンの車両をよく見かけます。何でしょうね。この感じ。

対戦車部隊はソフトエッジ、砲兵部隊の車両はハードエッジの迷彩をよく見かけるという傾向もありますが、迷彩パターンには多分にフランス車両の迷彩方法が反映されているような気がします。A.ベッカーの車両改造工場もパリのオチキスの工場を利用したものだと言うし、やはりフランス人のスタッフがいたんじゃないかなと想像してます。このあたりはもう少し調べてみたいところ。

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ノルマンディのロレーヌシュレッパー自走砲の「塗装遍歴」についての考察。
再現車両は、おそらく1942年7-8月頃の生産車。左上のパリで撮影された車両軍のように当時はパンツァーグレーでロールアウトしたと想像します。この写真の中の一台かもしれません。

1943年2月のダークイエローへの車体の制式色変更にともない、フランス国内に配備されていたこの車両もいずれかの時期にダークイエローにオーバーペイントされたと考えられます。写真右上のダークイエローに塗られた車両は、ダークイエローの上にもやっとした迷彩がかけられたのか、あるいはグレー色を塗り残した2色迷彩なのかははっきりしませんが、予備転輪のゴム部分にダークイエローがはみ出して吹かれていることから、ダークイエローを現場でぶわっと吹き重ねたものであることは想像できます。
写真下段の類似車両のようにイエロー単色だったりグレーにイエロー重ね吹きだった可能性もあります。

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このダークイエローの重ね吹きの状態をまず再現してみました。足回りと搭載砲を最初グレーで吹いて、AKインタラクティブのチッピング液を吹いて乾かした上に水性アクリル系のダークイエローを吹きました。生乾きぐらいの状態で水をつけた筆で擦って塗装を剥がして、実車のオーバーペイントの弱い塗膜が劣化した様子を表現してみました。

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砲の部分も同様の表現。車体は例のグリーン迷彩を施すのでこの作業は省略。車内も本当はグレー地にダークイエローをオーバーペイントしたほうがいいのでしょうが、時間がなかったので、ここも省略。グレーで一度暗くするとイエローを吹いて明るくするになんども重ね吹きしないといけないので...

剥がし部分はもう一度軽くダークイエローを吹いてさらに剥がしたりしてトーンに変化をつけてます。使用した塗料はMMPのダークイエロー(RAL7028相当色)をビン生で吹いてます。重ね吹きの時に少し明度を上げたダークイエローを薄くかけてニュアンスを調整しました。

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( YouTube:Rommel Reviews the 21st Panzer Division )

1944年5月のロンメルの前線視察の時の動画があります。ロレーヌシュレッパー自走砲もちらっと写ってますが、ダークイエローの地色が多く残された迷彩。登場する対戦車自走砲などはダークイエロー単色の車両もまだ多い印象。グリーン面積が増えた迷彩が施されたのは、この後6月までの間の時期ではないかと思われます。

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復元した迷彩パターン図を元に車体上部に三色迷彩を施しました。塗り分けはパンツァーパテを使ったものの、細いダークイエローの帯を塗り残すのが難しく何度か修正している間に少しぎこちなくなってしまって、結局筆塗りで修正... まだまだ使いこなせてない感じの仕上がり。
迷彩塗装とウェザリングは写真のような簡易なドックに固定して作業を進めてます。

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後面のパターン。実車と比較してダークイエローの帯のニュアンスが違うのは...  
例のジグザグ迷彩の車両の後面と前面を写した写真がPANZERWRECKS8に掲載されていて、車体後部左側と車体前面左側上部に砲兵兵科マークが描いてあるのをこの車両にもデカールで再現してみました。しかし、このマーク。実車の写真(右)では識別できないと思ってたら、黒いマークがうっすらと存在するのを発見。でもデカール貼ってしまった後だったので、そのままに...

写真は何度も見たのに、白いマークがあると思って見ていたから黒いマークが写っていることに気がつきませんでした。思い込みって怖い。

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オープントップの自走砲の場合、内側の塗装がどうなっているかというのが、いつも課題。オチキス改造自走砲では内部はグレー塗装のまま残されている車両があったりしますが、ロレーヌシュレッパー自走砲では内部はほぼダークイエローでオーバーペイントされていることが事例から確認できます。しかも内側も迷彩塗装がかけられている事例もいくつか。

榴弾砲搭載型の車両は射角の関係で上部が大きく開放された形状になっていて、また砲撃で展開するのも開けた地形が適してたりするから、対空偽装は必須だったのかもしれません。写真右の車両は外側の迷彩がハードエッジなのに内側はスプレー迷彩。
このパターンを応用して、内側はエッジのぼやけたスプレー迷彩にしてみました。

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内側と外側で迷彩パターンが違うのは迷彩した時期にずれがあると想像します。同様に車体前部の操縦手ハッチの内側もソフトエッジの迷彩にしてみました。そう思ってみると、この車両の実車写真のハッチ裏側もそんな感じに見えなくもない。

ウェザリングや内側の塗装についてはまた改めてやります。履帯の張り方もアイドラーホイールの位置が下がりすぎなので、調整して写真撮り直す予定。

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Commented by hiranuma at 2018-12-06 20:39 x
細部の工作はもとより繊細でリアルな塗装の自走砲の完成は、指標に成り得るとてもよくできた作品だと思います。
次も楽しませてください。
Commented by かば◎ at 2018-12-07 06:59 x
これこれ。

まさにこういう、「ああでもないこうでもない」「ああだろうかこうだろうか」こそ、「hn-nhモデリング」の神髄と言えましょう(^o^)。

またその「過程と結果」が、きちんと作品に見えている、というのが流石です。

私なら、「この(写真の)車輛と同じ歴史を歩んだ隣の車輛」ってことにして、適当にパターンを改変して誤魔化しちゃうかも(^^;)

誘導輪に関しては、ロレーヌの場合は、起動輪~上部転輪~誘導輪はほぼ同一レベルか、誘導輪はほんの「心持ち」下、というのが通常の状態のようなので、確かに現状は下がり過ぎな感じですね。
Commented by hn-nh3 at 2018-12-08 05:11
hiranumaさん ありがとうございます。
塗装についても評価いただきうれしく思います。

SUMICONのBBSのコメントで少しその辺りの話をしたものの、深入りしても...と思いとどまりましたが。(そのあたりの言葉足らずで誤解を招いてたらごめんなさい)

油彩で多色のドットを置くフェーディング(ドッティング)技法は前作のT-60の時からやらないことにしてます。多色をおいて塗装の部分的な色偏差を作り出すのは、色彩の視覚混合いわゆる印象派の技法に通じるものだと理解してますが、模型面でそれをやるとディテールの解像度に対するスケールの混乱が起こるんですよね。

それを避けるためにドットの色ムラをぼかしていくと、結果として絵の具の多色混合で濁った色面になってしまって、模型の色彩としての抜けが悪くなってしまいます。もちろんそれを避けるための熟達の技もあるのでしょうが。

といって何もしないと基本塗装の塗膜の粒子感が1/1スケールで見えてしまい、それもアンリアル... スケール対策としてディテールの影にわずかな墨入れと、足回りの長期汚れ(塗膜劣化)と車体上部の短期汚れに限定してウェザリングをしてみた次第です。
Commented by hn-nh3 at 2018-12-08 05:30
かば◎さんも完成お疲れ様でした(^ ^)

当初はベースをつけてフィギュアも絡ませたジオラマ仕立てにしようと目論んでいたこともあり、迷彩スキームの再現に関しては「同じ小隊の僚車」という設定で、記録写真の車両のパターンを応用して...と思ってたのですが、車体左と右でパターンの法則がかなり違うのに面くらいました。それで結局トレースして再現するのが完成の近道、ということで特定車両の再現に大きく傾きました。

となると、兵科マークの色が違ったり、車体後部の謎のラックが再現されてないとか、それはそれで微妙な問題も出てしまったのですが。。

>>導輪に関しては、ロレーヌの場合は、起動輪~上部転輪~誘導輪はほぼ同一レベルか、誘導輪はほんの「心持ち」下

ロレーヌの履帯テンション調整機構は誘導輪軸部がクランクしたシャフトの回転で行ってますが、模型では下がったポジションになってしまってます... 撮影前には気づいていたものの履帯のテンションでそれ以上は回転して上がらなくて.... 後で冷静に考えたら外回りで回転させても無理で、内回りで回転させたら難なく上がりました..(焦ってる時はダメですね)
それでも心持ち低め?な感があるのは模型のキットの誘導輪基部が低めなのか、どうかは未検証。
by hn-nh3 | 2018-12-06 20:29 | ロレーヌシュレッパー系 | Comments(4)