「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」の片隅

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季節はあっという間に過ぎていきます。時間に追われて、本も読まずに積んだままの日々。
そうそう、モデルグラフィックスの2019年4月号も買ってます。映画「この世界の片隅に」の映像世界を模型で読み解く好企画。もうちょっと早くレビューするつもりだったんだけど。。

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「この世界の片隅に」は映画を見て、原作となる、こうの史代さんの漫画も買ってしまったクチですが、本屋で表紙をめくるまでは正直期待してなかったですね。今年公開が予定されている新作の映像追加版:「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」の宣伝を兼ねたタイアップ記事、ぐらいに考えてましたが、いやはや、パラパラっとページをめくった次の瞬間にはレジに向かってましたね。巻頭から後ろのページまでみっしりと特集記事。

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映画のシーンを再現した見事な作例もさることながら、片淵監督特別監修ということだけあって、映像の中でのメカの描かれ方なども詳細に語っていて、模型作りのヒントになります。

ブログ中の記事の紹介写真は絞りを浅くして撮ってます。ピンボケしちゃったんじゃないよ。ちゃんと買って読もうね。

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主人公のすずさんが嫁いだ北條家の段々畑をリアルに再現した記事なんか好きです。制作を担当しているのは、AFVモデラーにとってはカリスマ的存在の吉岡和哉氏。装甲車が登場するでもなく野菜が植わってるだけの段々畑ですよ。なんという才能の無駄遣い。(笑)

映画の考証は徹底してます。片渕監督は呉市で栽培されていた野菜も調べていたとのこと。記事の写真は野菜の栽培カレンダー。これに応えて吉岡氏もさつま芋、かぼちゃ、葉物の野菜の葉の写真からデーターを作って、レーザーカットで切り抜いた自作野菜パーツで見事に再現。制作記事の解説も簡潔にして的確な文体。これぞプロの仕事。

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個人的にはこういうページが好き。映画の片隅に写っているメカを同定してます。

終戦直後の呉に着底する艦船群を米軍が撮影したカラーフィルムは有名ですが、映画の風景は当時の記録に基づいて精密に再現されていることがわかります。


https://www.youtube.com/watch?v=RnFHIbhng84

映画「この世界の片隅に」を見てる時は気がつかなかったけど、劇中、こんなに映ってたんだっていうぐらい、いくつもの艦船、飛行機がチラッと登場してたんですね。艦船や飛行機で自分の模型ジャンルとしては守備範囲外のものばかりですが、前に記事(一円陣地)でちょっと書いた八九式12.7cm連装高角砲なんかも映ってます。その他にも広島市内を走っていた市電やトラックの類も型番まできちんと考証されているのが解説されていて楽しい。

しかし、こうした軍艦や戦闘機が映画の中の風景に描かれているのに映画の物語ではほとんど説明されないんですよ。
それは映画の文体でもあるけど、主人公のすずさんが知りえないことは(同じ世界に存在していたとしても)説明されることがない、ということなのか。 確かに現実ってそうだよね。

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そんな話はB29と戦艦大和の描かれ方にも現れてます。B29は10,000mもの高高度を飛ぶから飛行機雲が出るんだけど、空の飛行機雲を見て、「知識として知っている」ぼくらはそれがB29だと気がつくけど、初めて空に見るすずさんにはB29は見えない。

戦艦大和は前に呉軍港に入港しているのを「あれが大和だ」と旦那の周作さんから教えてもらったから大和だと知っている。しかし、そのB29が向かった先の海に浮かぶ大和らしき姿が映るシーンには何の説明もない。ぼくらはそれを見て沖縄に出撃する戦艦大和だと想像する訳だけど、それは呉で暮らしている主人公のすずさんが知らない世界で起こっていること。山の向こうの広島に落ちた原爆も同じで、原爆症のことも描かれても語られない。

ちょっと模型誌レビューから脱線してしまったけど、映画評では物語の背景世界についての話が少なかっただけに、片渕監督自身が解き明かす戦艦大和の最後のシーンのことなど、腑に落ちた感じ。

by hn-nh3 | 2019-03-17 16:27 | 資料 | Comments(0)