ドイツ戦車色早見表:というか僕らは模型を何色で塗ったらいいのか

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中学生の頃はドイツ戦車の色はダークイエローにレッドブラウンとダークグリーンの迷彩。と覚えたのに、近年はデュンケルゲルプ:RAL7028にオリーブグリュン:RAL6003とロートブラウン:RAL8017と言うのがトレンド。模型用塗料も当時のRAL番号の色を再現したものを各メーカーが用意していて、買ってくれば誰でも「正しい色」で塗れる。

だけど、「買ってきた塗料の瓶から出した色をそのまま塗ってもドイツ戦車にならない」 というのは誰もが気づいているんじゃないかな。

たとえば「スケールエフェクト」の問題。模型は実物の色より明るくしないと見た目の印象が変わってしまう。1/35スケールでは10%くらい明度を上げて塗るのがお約束。
スケールエフェクトの根拠は諸説ありますが、個人的には屋外との照度の違いにあると考えています。部屋の照明 500~1,000ルクスに対して、屋外の自然光は5,000~100,000ルクスとはるかに明るい。もちろん肉眼もカメラも露出を変えて明るさを揃えようとするけど、屋外は太陽の光に加えて天空の散乱光が全方向から照らすので影の部分にも十分な光が届いています。室内だと照明以外の光が減るので全体に色が沈んで見える。それを補正するために明るく塗って太陽の光の印象を再現する、という話だろう。

タミヤの「ダークイエロー2」「ダークグリーン2」など最近の調色はスケールエフェクトが加味されているそうです。敢えてRAL番号をつけてないのはそれが理由かも。
RALの色番号を正確に再現した塗料は、模型に塗る時に明るめに調整すると実感に近づきます。


もう一つの問題は後で話をするとして、まずは大戦期のドイツ軍戦車の塗装色と対応した模型用塗料のカラーチップと当時のカラーフィルムを見比べてみます。塗料サンプルはAKのリアルカラー、ライフカラー、ファレホ、ミッションモデルズペイント、タミヤ、ガイアカラー。※WEB用のカラーチップなので実際の塗色と異なります。

カラーフィルムはそれぞれの発色の違いを比べられるように、周りに人間が写っているものをなるべく選んでみました。

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1939年のポーランド侵攻、40年のフランス戦の頃は、デュンケルグラウ:RAL7021とデュンケルブラウン:RAL7017の2色迷彩だったことが最近の研究でわかっています。このブラウンはグレーとの明度差が少なくモノクロ写真では殆ど区別がつかなくて、近年発掘されたカラー写真でようやく確認できる程度。デュンケルブラウンは40年7月に使用停止。41年のロシア侵攻(バルバロッサ作戦)の頃はデュンケルグラウ:RAL7021の車両がほとんどだったと考えられます。


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ポーランド戦の2号戦車:写真出典 World war photos(左), Takiguchi Collection(右)

いわゆる「ジャーンマングレー」はカラー写真では黒に近い発色ですが、当時は一般的だったモノクロ写真に明るいグレーで写ってることが多いので、イメージのずれに少し戸惑うことがあります。その意味では模型に塗るグレーは少し明るめに調色すると、記録写真の中の戦車のイメージが加味されるように感じます。試みに砲塔部分の色を写真からカラーピッカーで拾ってみました。写真の色なので当然に塗装の色ではないものの、カラーパレットの色が写真の中でどう見えるかの参考にはなると思います。




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アフリカ戦線。1941年に最初にアフリカに送られた車両はグレーの車体に現地で砂に油を混ぜて塗ったりイタリア軍の塗料などを使用。41年3月にゲルプブラウン:RAL8000の基本色とグラウグリュン:RAL7008の迷彩(Tropen1)が指定。42年3月に基本色がブラウン:RAL8020と迷彩色サンドグラウ:RAL7027(Tropen2)に変更。模型用塗料としては色の解釈に幅があるようで各社の色サンプルはマチマチ。


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RAL8000とRAL7008はカラー写真でも見分けがつかないことが多い。上の給水作業の写真の左隅に写っている2両のトラックがTropen2とTropen1なのか。
1943年のチュニジア戦に送られたティーガー1と3号戦車はTropen1のRAL8000とRAL7008で塗られていた..という話のように、Tropen1とTropen2の使い分けが単純に年代で判断できないところも難しいところです。以前にアフリカやロシア戦線のティーガー初期型はオリーブグリーンで塗られたという仮説もありましたが、おそらくTropen1のゲルプブラウンが沈んだ色調に写っていたことから来てるのでしょう。


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アフリカ向けの塗装の車両は1942年のロシア戦線にも送られていたことが近年明らかになっています。明るい色の戦車が42年に登場していることは以前から知られていてダークイエローの塗装が既に始まっていたと解釈されていましたが、これらがアフリカ向けの塗料だったことが判明。Tropen2と思われるRAL8020はダークイエローよりも淡い色調に見えます。現場で明るすぎると思われて一部の車両ではサンド色の上からグレーを塗り直して使った例も確認されています。



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1943年2月にヨーロッパ向けの基本色がダークイエローに変更になります。最初はNach Munsterと言われるRAL番号がない黄色。4月にデュンケルゲルプ:RAL7028に変更。迷彩色はオリーブグリュン:RAL6003とロートブラウン:RAL8017。共に濃縮されたペースト状の塗料が支給され、前線の部隊で希釈して塗装。スプレーガンでエッジをぼかした迷彩は塗料の濃度や吹き方の差で色のニュアンスが大きく変わるのことが写真で確認できます。


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カラー写真はドイツ側で撮ったアグファフィルムの写真と米軍で撮ったコダクロームでは色調がかなり変わってきます。フィルムの発色の違いも頭の隅に留めておくことは必要かもしれません。



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1944年8月に工場で迷彩塗装を行うよう指示が出ます。この頃に流行ったアンブッシュ(待ち伏せ)迷彩、または「光と影」迷彩と言われるものはそれぞれの色で1/3づつカバーして色のドットを散らしたパターンですが、採用の時期とパターンの特徴は車種というより工場毎に大きく違うので模型塗装で考証にこだわる場合は要注意。44年頃のカラー写真があまり残ってなくて、塗装色のトーンが掴みにくいのが悩ましいところです。

43年2月の基本色の変更が前年のロシア戦線でのサンド色の車両の運用を制式化したものと考えられるように、44年8月の工場迷彩の採用も少し前から一部で試験的に始まっていたものを公式に指示したものという気もします。



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1944年の秋に迷彩の下地として車両全体にデュンケルゲルプを塗ることが廃止されて、デュンケルグリュン、ロートブラウンをそれぞれ錆止め塗料のレッドオキサイト(ロート:RAL8012)の上に直接塗る方式に変更。迷彩のエッジはボケ足の短い輪郭のはっきりしたパターンが増えます。塗装の下地が従来のダークイエローからレッドオキサイトに変わると上塗りの迷彩の発色も当然変わってきます。下地の赤が透けて塗装は沈んだ色調になるはずですが、写真では分かりにくいところ。

デュンケルゲルプの色調も変更があったようで、少し緑が強い色がアウスガーベ44として定義されています。
アウスガーベ44はカラーサンプルで見ると、従来のダークイエローより暗く沈んだ色調とされてますが、その時期に写された車両は概して明るめのダークイエローで、模型用カラーで用意されている色は明るく彩度を抑えた色調。



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1944年の11月下旬に「グリーンベース 」と言われる基本色がオリーブグリュンに変更の指示が出ています。実際、グリーンベースの塗装がどこまで行われていたかは定かではなく、パンターの一部の車両でグリーン主体の塗装が確認できる程度。下塗りにグリーンが採用されたというよりグリーンの面積比率が増えたと考える方が妥当かもしれません。

45年頃の写真を見ると、グリーンの色調が明るいパターンが増えます。このグリーンに対応したものとして、模型用塗料ではレシダグリーン(RAL6011)という明度の高いグリーンを複数のメーカーが用意してますが、実際にこの変更があったのかは正直よくわからない。


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AFVリアルカラー(日本語版) A4版 208P 2018:モデルアート社

第二次大戦当時の戦車の色を知るには、この本を見るといいでしょう。AFVリアルカラー(日本語版)です。
当時の写真からの塗装色の考察、オリジナルに近い模型用塗料の開発など、近年の塗装色研究をリードしてきたAKインタラクティブが発行したバイブル本。日本語版は色再現と解説に国内の著名な研究者の監修も加わっているので、「買うなら日本語版に限る」とのこと。


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写真出典:AFVリアルカラー(日本語版)


当時の公式のカラーガイドから起こされた色は限りなく正確。ドュンケルゲルプの色も44年に変更された「アウスガーベ44」との違いがよくわかります。


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写真出典:AFVリアルカラー(日本語版)


とはいえ、実際の「ダークイエロー」の色調は多種多様。現存する当時の装備品の色を見てもマチマチ。下地の錆止め塗料の色も当然に影響するし、塗り重ねの回数によっても色調は変わります。紫外線による退色もあるでしょう。

そもそも「ドュンケルゲルプ:RAL7028の正しい色」というのがあったのかという問題もあります。塗料メーカーが変われば使っている顔料で色も変わります。たとえば現在、国内でペンキの色を発注するには「日塗工のカラーチップ」の番号で指定しますが、同じ色番号でも塗料メーカーによって微妙にニュアンスが違ってきます。現在でもそうなのですから、顔料の配合比のない当時の色見本ましてや戦時中ということを考えれば、メーカー毎にさまざまな[RAL7028近似色]を使っていたのだと想像できます。


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写真出典:タミヤ 1/35 MMシリーズのカタログより


大戦後半のドイツ戦車の迷彩塗装の色調が思った以上に悩ましい。例えばタミヤのMMシリーズの完成見本の写真を見ると最近のキットでも色調はマチマチ。撮影の照明や現像で色調が変化するとしても、同じ色のタミヤカラーを使ったとは思えないような色調の違い。ダークイエローの色もバラツキがあります。左側のマーダー1の迷彩は少し茶色を帯びたオリーブグリーンで最近の「オリーブグリュン:RAL6003」のカラーチップに近い色調。それに対して中央のブルムベア後期型、右の4号駆逐戦車L70V ラングは青みがかったダークグリーン。レッドブラウンもマーダー1は「ロートブラウン:RAL8017」のイメージに近い。ブルムベアとラングの茶色は「ロート:RAL8012」のイメージ。

果たしてキットの説明書に書いてある塗料の瓶を買ってきてそのまま塗ればこの色になるのか、多少の調色は必要なのか、エアブラシの吹き付け濃度はどうすればいいのか。ボケ足の短い迷彩はどう描けばいいのか。肝心なところのレシピは示されてない。カタログ写真のように塗りたければどうすればいいのか、実物の写真のイメージに近づけるにはどうしたらいいのか。結局はモデラーの感受性と経験値でしかないのだろうか。お手本に近づける方法がわからないことと、個人の自由とは意味が違う。

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写真出典:AFVリアルカラー(日本語版)


オリーブグリュン:RAL6003のカラーチップを見ると、僅かに黄色の混ざった暗いグリーン。濃縮されたペーストを現場で水かオイルで希釈して塗装することになっていたから、濃度の違いでダークグリーンにもライトグリーンにもなったのだと想像しますが、当時のカラー写真で青みの強いタミヤの昔のダークグリーンのようなトーンも見かけます。「AFVリアルカラー」には他のグリーン(戦前期のグリュン:RAL6003)のストックが使われたこともある、ということを考えれば、グリーンの塗料の色調もダークイエロー同様に似たような近似色がいくつもあったのでしょう。


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迷彩色の振れ幅を見るために、カラーフィルムから色を拾ってみます。実験のため敢えて色のトーンが大きく違うサンプルを選びました。
左の写真の小型トレーラーは黄色の強いダークイエローに青の強いグリーンと明るいブラウン。同じ写真の右奥にいるワゴンは茶色の強いダークイエローに渋めのグリーンとブラウン。同じ写真の中でこれだけのトーンの違いがあるというのは実際にも色がそれだけ違ったのでしょう。空の雲で影になっていた可能性は残りますが。
右の写真は淡いダークイエローにグリーンとブラウンを薄く吹いたのか柔らかく渋めのトーン。写真のフィルム発色の問題を考慮しても2枚の写真では迷彩の色調が大きく違います。

カラーピッカーでそれぞれの車両の垂直面の色を拾って並べてみました。そもそものペンキの色味が違うという予測を裏切って、共通性を感じるカラーパレットが抽出されました。写真から色を拾うなんてナンセンス、と思ってもやってみるもんですね。

迷彩色のグリーンとブラウンは色の濃度の変化でトーンの違いが生まれていることが見て分かります。下地のダークイエローの違いにも影響されて発色が変わっているようです。ダークイエロー(ドュンケルゲルプ:RAL7028)の色味の違いは塗料のバリエーションなのか、下地の材料(木製ボディ、メタルボディ)の塗料の吸い込みと光沢の違いによるのか、そこまでは分かりませんが下地の状態によって大きく変わってくることは容易に想像がつきます。

グリーンは「オリーブグリュン:RAL6003」の系統と言って間違いないでしょう、ブラウンは「ロートブラウン:RAL8017」。写真で感じていた色の違いの印象がカラーパレットではそれほど大きくなかったのは驚きです。色の組み合わせ方、面積の違いで色の感じ方も大きく変わる、ということです。


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大戦末期の迷彩トーンも調べてみます。左の写真のヘッツァーの雲型迷彩は淡いグリーンとチョコレート色。右の写真のヤクトティーガーは焼損していて判然としないところはありますが、彩度の低いダークイエロー(アウスガーべ44 ?)の帯の中に淡いグリーンが確認できます。ブラウンもかなり沈んだ色調。グリーンの色調が従来の緑の濃いオリーブグリーンとは大きく異なります。これが模型用塗料で用意されている「レシダグリーン:RAL6011)なのか。

カラーパレットに抽出した色で見ると、実は「オリーブグリュン:RAL6003」の色味から大きく外れるものではありません。従来のデュンケルゲルプ:RAL7028から彩度の低い「アウスガーべ44」に変わった下地に濃度を薄めたグリーンを塗り重ねたことで淡いグレーグリンの発色になっているとも想像できます。

ここで少し考えないといけないのは、1944年の10月から塗料の節約のためにダークイエローを迷彩下地として全面に塗ることが廃止され、グリーンやブラウンは錆止め塗料の上に直接塗ることに変わったということ。レッドプライマー(RAL8012 or RAL8013)の上に希釈したオリーブグリュンを塗っても上のカラーパレットのような明るい色調にはならず、むしろ沈んだ灰色がかったトーンになります。

下地の色が透けないように塗るには塗料濃度を濃くして、それでいて明るいグリーンに仕上げるなら塗料に白と彩度の高いグリーンを少量混ぜないと難しいはず。すると「レシダグリーン」と言われる明度の高いグリーンの特色塗料が必要になるのかもしれません。もしくは、実際にはダークイエローベースが継続されて希釈したオリーブグリュン:RAL6003を塗っていたのか。


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1945年の「グリーンベース」の実例と見られるパンターの写真。記録映像からのキャプチャー画面でフィルムの発色が悪かったので、少し補正して周囲の色がナチュラルに見えるよう加工しました。カラーパレットに色を拾ってみると、色の系統としては上の2両と似ています。グリーンとブラウンの彩度の低さはレッドプライマーの上に直接塗ったことに由来するのかも知れません。グリーンも希釈せずブラウンと同じ濃度で塗ったようにも見えます。しかし濃度の濃いオリーブグリュンはそれ自体がもっと暗い色調なので、謎は残ります。



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いいサンプルがありました。8輪装甲車に対戦車砲を積んだSdkfz.234/4の1945年のフィルム。ハードエッジの迷彩のグリーンは淡く、ブラウンは明るく赤の強い色調。ダークイエローの上にそれぞれ薄く塗ったら、こんな色になりそうです。そしてもう一つ面白いところ、対戦車砲の砲身を見てください。同じくハードエッジの迷彩ですが、車体の色調と明らかに異なります。デュンケルゲルプ「アウスガーべ44」、オリーブグリュン:RAL6003、ロートブラウン:RAL8017の模型用塗料を「ビン生」でそのまま塗ったら、まさにこのような色になります。

すると、車体の淡い色調と砲身のくっきりとした色の違いはどう考えればいいのか。車体の迷彩は曲線のエッジで構成された塗り分けですが、砲身の塗り分けは少し鋭角の直線的なパターン。砲身は消耗品だからひょっとすると最近交換して塗装したばかりの色かも知れません。車体はだいぶ前に塗ったもので退色もしているし埃をかぶっているし、その時は薄めた塗料を工場で塗ったのか.. いずれも想像の域を出るものではありませんが、一つの車両の中にも何らかの原因で違うトーンの迷彩が混在するというのは面白いと思います。



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制作中の模型で迷彩塗装のテストをしてみました。チェコのBMM工場で1944年の6月頃に生産されたヘッツァーの迷彩塗装を再現したものです。ポーランドの博物館に現存するこの車両の転輪から、デュンケルゲルプは黄色の弱い色、オリーブグリュンはRAL6003より青みの強い色であることが分かっています。ひょっとするとドイツに併合される前にチェコ軍が使っていたグリーンのストックかも知れません。ブラウンは少し変えてます。残ってる色はRAL8017というより赤の強いRAL8012に近い色ですが、模型には8017の近似色を塗りました。個人的な好みを少し入れてます。

グリーンは車体では何度も吹き重ねて強く発色するように塗り、砲身はさっと軽く吹いた程度で淡いグリーンの色調。砲身と車体側の色を抽出して並べてみました。エアブラシの吹き方でこのくらいトーンが変わります。1.の砲身部分の色は45年の車両で見かける淡いグリーンの色にも似ています。下地のイエローが透けて砲身基部とは違う明るいトーンができています。同じ塗料でもこのくらいの変化が生まれます。

あともう一つ。これが大事なところで、カラーパレットは、ピッカーで拾い出した色ではなく砲身部分と砲身基部の画像を切り出して拡大、配置しただけのものです。
ベタ塗りのピクセルカラーではなく、ダークイエローの色面にグリーンを薄く重ねた「透過光のトーン」です。塗料の透過度、吹き重ねの粒子の透けで生まれるレイヤー上の混色です。だから1.の色調を出そうと2の塗料にダークイエローと白を混ぜて作った「白灰緑色」の塗料を塗っても1.のトーンにはなりません。 実は2.のグリーンの色調を決めるまでに1に似た「白灰緑色」の色も塗料の混色で作りました。しかしそれを塗ってもキレの無い色にしかならなかったので作った塗料は全部捨てました。

模型のカタログや当時の写真の色に似せて白や黄色を混ぜて忠実に調色しても「見覚えのある色にはならない」ということです。ここに大きな落とし穴があります。

実物と違って模型は小さいからどうしても塗り重ねてベタ塗りになりがち。そして真面目なモデラーであるほど、模型はムラなく下地が透けないように塗らなければいけないと思いがちなので、得てして出来上がった模型は実物のような吹き重ねで生まれた透明感のあるトーンとは程遠いフラットで単調な色。

「買ってきた塗料の瓶から出した色をそのまま塗ってもドイツ戦車にならない」ドイツ戦車の塗装の難しさです。




模型の色は迷彩色の指定がダークグリーンからオリーブグリーンに変わったように、それぞれの時代の解釈の結果でもあるし、模型を見て模型を塗ると調色の罠に陥りやすいので、なるべくオリジナルのイメージに接して感じとったものを模型に表現するのが結局は近道なんだと思います。その意味ではカラー写真はモチーフのイメージを確かめる大事な手がかりになります。

しかし忘れてはいけないのは、「カラー写真も実物の色をトレースしたものではない」ということです。カメラに写る色が実物と同じでないのは当たり前の話ですが、現在、目にしている記録フィルムの色というのも人工的に作られた色です。下の写真は1942年頃、ドイツのカメラマンがウクライナの少女を撮った写真ですが、発色の違う2つのバージョンが存在します。右側の色の被った写真が退色したポジから焼いたものでしょう。そして左側の鮮やかな画像は、右の写真をPC上でキャリブレーションをかけて「当時の色彩」を復元したものだと思われます。


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昔のフィルムは保存状態の差はあっても、例外なく退色しています。近年、見かけることが多くなった鮮明なカラーの記録写真は、この復元技術の進歩によって生まれたものだと思われます。だからそこに写っているのは当時のリアルな色ではなく、たぶんこんな色だった、という想像の世界の色だと思っていた方が安全です。
だけどその向こう側にしか本当の色が残ってないというのも、もう一つの事実です。


参考文献:
・AFVリアルカラー(日本語版) A4版 208P 2018:モデルアート社
German Armour Camouflage
・タミヤ 1/35 MMシリーズのカタログ
・その他、ネットで拾ったカラー画像

+ Twitterで情報、写真の収集に協力いただいた方々に感謝

Commented by tk*m2 at 2021-05-07 21:57
記事化お疲れさまです
ミシリンでも時々議論が巻き起こりますが、
色に関しては明確な資料がないのもあってか
曖昧なまま議論が収束してしまうことも多いんですよね

234/4の車体と砲身の色の違いは砲身の耐熱グレープライマーの影響というのも考えられるのかも、と

大戦末期の塗装に関してはレッドプライマーの上に直接塗装と、
もう1つリン酸亜鉛パーカライジング、いわゆるグレープライマーの上に
直接塗装した例もあったんじゃないかという話もあるようですね

戦後のMNH工場のカラー写真でもレッドプライマーの砲塔と
塗装された砲塔、それにフェンダーが黒いヤークトパンターが並んでたりしますし
https://cacoethes.web.fc2.com/Pzkpfw4/j/j-feb-2.html

ただこの砲塔の色もAusgabe1944なのかグレープライマーなのかで
人によって意見が分かれたりしているので色の話は本当に難しいですね…
Commented by hn-nh3 at 2021-05-07 23:39
tk*m2さん
アドバイスいろいろありがとうございました。
背中を押されて、だいぶ深入りしてしまいましたよー(笑)
そもそもの発端は、模型用のオリーブグリュンの色がどうもピンとこないところが多くてそこから拡がって...

プライマーの色は思った以上にグレープライマーがあったんじゃないかと私も思ってます。ヘッツァーに関しては車体はグレープライマーとほぼ確信してます。転輪などサブパーツはレッドプライマー。

MNH工場のパンターの写真はよく話題に上りますね。ヤクパンのフェンダーはジンク系のプライマーだとかの。
言われてみると砲塔の淡い色もグレープライマーの可能性はありますね。車体がずらりと並んでる写真、F型車体が混ざってるとかの一枚。これもひょっとするとグレープライマーだったりするのかも。いわゆる「グリーンベース」の頃は下地がレッドプライマーではなくグレープライマーだったと仮定する方が仕上げの色の発色など説明がつくこと多いんですよね。
Commented by tk*m2 at 2021-05-08 22:14
大戦後期のいわゆるレセダグリーンですが、
43年4月のH.M.1943 S.113 Nr.181ではRAL 6003はolivgrunとなっていて、
これはRLM80に相当する色なんだそうですが、
1944年の塗装に関する書類ではRAL 6003は単なるgrunでしていされていて、
これがRLM62に相当する色でいわゆるレセダグリーンじゃないか、
って話があるようです

末期は塗料不足でダークイエローに車内色のエルフェンバインを混ぜた、とか
チェコ製戦車はチェコ規格の塗料なので色が違うって話もあるみたいですが、
カラー写真の車両に実際にどの色が塗られていたのかが分からないので
どうしても推測混じりになってしまうのは避けられないと思うのですが、
こうして文章化されると曖昧だった部分が明確化されて、
考察の出発点としてとても有意義だと思います
Commented by hn-nh3 at 2021-05-09 07:35
1944年のRAL6003の表記変更があったというのは
興味深い話ですね。もう少し補完情報が見つかるといいのですが..
オリジナルの塗料缶らしき写真もあったりしますが
https://imgur.com/WGvMEjI
このグリーンは明らかに ”OLIVGRUN”とは違う明るい色調です。これが本物だとすると、「ResedaGreen」の存在を証明するものにもなるのですが。例えばそれが45年頃の標準色となると、逆に上掲のグリーンベースのパンターの色が暗いグリーンの意味が説明しにくくなるのもまた悩ましい。

>末期は塗料不足でダークイエローに車内色のエルフェンバインを混ぜた

これは少々マユツバな気はします。確かに一時は廃止された車内の白塗装が復活して、「混色」の環境は揃っていたと言うことはできるのでしょうが、
逆に混色前の塗料で塗った事例が「例外」として明確に見つからないと、車種や工場をまたいで明るいダークイエローが拡がった現象が説明しにくいところです。
仮にエルフェンバインを混ぜて代用するとしても、基準色と言うのが意識されていれば
エルフェンバインにロトブラウンを微量混ぜてRAL7028で定める明度に近づけようとするんじゃないかしら、ドイツ人的には。何か外部的な変更の意思がないと。

>チェコ製戦車はチェコ規格の塗料なので色が違うって話もあるみたい
この話は以前、四谷仙波堂で店主からも聞いたことがあります。確かにそう考えると腑に落ちることが多くて
末期のハードエッジの雲型迷彩なんかもチェコ規格の色との類似性を感じます。
ダークイエローより明るい白のような色を加えた4色迷彩のヘッツァーのカラー写真で残ってたりする話、記事で使ったヘッツァーの迷彩の「白に近いダークイエロー」は突っ込むと面白いのですが、話がまとまらないので今回はスルーしてます。
折角なので別項でその話もしたいとは思ってます。戦前の3色カラーと車内色もシートにまとめてる準備はしてますし。


Commented by tk*m2 at 2021-05-09 21:55
とりあえず43年と44年の指令と6003がRLM62相当である書類をまとめて置いておきました
https://cacoethes.web.fc2.com/Pzkpfw4/j/j-45feb-2a.html

基本塗装をグリーンにする指令の中では
同時にグリーン塗料がない為に納品が遅れてはならない、
との文面もありますし、
従来の在庫の塗料を使い切る慣例もあるようなので
暗いグリーンの在庫があればそれを使うのも不思議ではないようにも思えます
https://cacoethes.web.fc2.com/Pzkpfw4/j/j-45feb-2.html

ここら辺、塗装が先行してそれを追認して指令が出てるようだったり、
その逆だったりと所謂ドイツ人的ってほどきっちりしてなかったんじゃないかなぁって印象があります
と言うよりも戦争の規模の拡大が急過ぎて、
そこまできっちりしてられなかったんじゃないかな、とも
Commented by hn-nh3 at 2021-05-10 06:43
tk*m2さん
オリジナルの資料、ありがとうございます。伝聞の伝聞ではなく一次資料に立ち返って考えないといけませんね。

"grun"という呼称がブラウンやゲルプの表記と同様に簡略化した表記なのか、オリーブグリュンという括りを外したものなのかははっきりしませんが、ダークイエローをアウスガーベ1944と従来の7028とは違うよの表示があることからすると、グリーンとブラウンは幅のある解釈ができるようになっていたのかもしれませんね。

ダークイエローの色調の変更は対空偽装を意識した明確な色変更の意思を感じますが、グリーンはどうなのかしら。
RLM80からRAM62相当の色への変化は単に調達できる顔料が変わったからだったりして。
それか迷彩スキームが変わってオリーブグリュンをベタ塗りすると暗すぎるって話が出て明るい調合が行われていたのか。
Commented by tk*m2 at 2021-05-10 22:47
twitterで色々と書いているのですが、RLM62は1944年にRLM82に改番されているようです
でRLM82はMr.カラーだとC122ライトグリーンに相当するそうです
そこら辺をさらに掘り下げていくとRLM81と82のカラーチャートを配るのは不可能で、
その結果として塗料の受け入れ検査は行わないとRLMが述べているそうで

ですので
「グリーンとブラウンは幅のある解釈ができるようになっていたのかもしれませんね」
というのはRLM82に関してはそういう状態だったようで、
実際の機体から採られたカラーチップでも明暗の異なる緑が見られますので、
塗料の供給体制、供給元が同様なのであれば
同時期に異なる明るさのグリーンが同時に存在するのも不思議ではなくなるかもしれません

ダークイエローの色調の変化に関しては
フランスとイタリアの失陥による黄土原鉱の供給途絶による顔料不足が原因だとの記述がドイツ語サイトでありました
http://www.kfzderwehrmacht.de/Hauptseite_deutsch/Verschiedenes/Farbanstrich/Tarnanstriche_43_-_45/tarnanstriche_43_-_45.html

今回色々と調べてみて個人的にはドイツ人的厳格さ、というのを無意識に
と言うよりも無邪気に重視しすぎていていて
逼迫した状況を軽視していたのかもしれない、と思ったりもしました
Commented by hn-nh3 at 2021-05-11 07:00
すばらしいリサーチ!
塗装に関する「定説」をアップデートする必要がでてきましたね。どこかのタイミングで記事も補筆訂正しようと思います。

RAL6003 Olivgrun は航空機用迷彩色 RLM62 を適用したものだという話だったのですから、RLMにも目を向ける必要ありましたね。
44年のRLM62のRLM82への改番とは本当にヤヤコシイ。
当時でも混乱したんじゃないかと思ってしまいますが、
ダークイエローも原料調達の問題がアウスガーベ44の背景になってたという話と
同様のことがグリーンにもあったのかもしれませんね。
製造段階でのグリーンの色調変化が大きくなって、追認するようにカラーチャートの色番号変更が行われたと考えれば
現場的な混乱は生じない訳で...

仮説を立てて調べるのと予断をもって証拠探しするのは紙一手。なかなか難しい。
ドイツ的厳格さというのも案外、戦後神話だったりするかもですね。
日本の工業製品が高品質というのも戦後にアメリカの品質管理が導入されて以降の話だから、
日本軍機は質に優っていたけどアメリカの物量に負けた、なんていうよくある論調も..
Commented by J6K1 at 2022-11-01 02:19
アグファとコダクロームとフィルムの色に付いて言われていますが、アグファ、フジ、コダックでもエクたクロームは色素がフィルム上にある内式、コダクロームだけがが現像時に色素を入れる外式であったと記憶しています。
経年劣化に対する退色ですが外式のコダクロームは他の内式よりかなり強いと写真業界で十数年飯食った間の記憶がある。
もちろんコダックでもコダクロームとエクタクロームでは発色の傾向は異なるし鮮度が良ければエクタクロームの方(これの中でも感度の種、同一感度でもプロ用アマ用もあり若干色味は異なる)が自然な感じだったと記憶しているけど、かと言ってコダクロームがかけ離れた発色をしていたわけでもなく個人的にはF1.4とかの明るいレンズを使って低感度である感度25のKM(標準的なコダクロームは感度64のKRと言われるものだったと記憶してます)とか好んで使っていました
なんで、古い写真フィルムでのコダクロームとそれ以外との比較でなら私は無条件にコダクローム推しをしますw
Commented by akane8150 at 2024-07-26 17:14
こんにちは
アフリカ戦線の88ミリ砲を作ろうと、塗装の資料を探していたら、貴殿のブログにたどり着きました。フムフム、なるほどと勉強させて頂き、8トンハーフ共々、作りました。よろしければ、写真の1枚を引用という形で挙げたのですが、いかがでしょうか。
by hn-nh3 | 2021-05-07 19:01 | 資料 | Comments(10)