マーダーコン(Panzerjager 39(H)7.5cm vol.3)

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六月。早いもので今年も半分が過ぎようとしている。窓の向こうを眺めている間に時間は確実に過ぎている。気づかないのは自分だけなのかもしれない。

最近、たびたび目眩に襲われることがあって、病院に言ったらメニエール病だと診断された。薬を飲んでいれば症状は抑えられるし聴力低下も起きてないとかで、大事には至ってないのだが、人生の折り返し地点を過ぎればいろんなことがあります。

この模型も作り始めて、いつの間にか9年が過ぎました。「デモドリ3号」と呼んでるこのキットはBroncoの1/35 オチキスH39改装のマーダー1。ドイツ軍がフランス戦で手に入れたオチキス軽戦車を対戦車自走砲に改造した車両で50台くらい作られたようです。

キットはブロンコの初期のものでパーツの精度が悪く考証間違いもあったりして切った貼ったの工作が必要でした。模型復帰3作目の熱量で基本塗装までは終わらせたものの、仕上げのイメージを決めかねてそのまま放置。

結局は締め切りなんでしょうね。可能性ばかり考えている頃は何も決まらない。残り時間を逆算して今できることをするだけなのに..
それで、Twitterで行われていた「マーダーコン」にこれを出品しようと半月前に引っ張り出して、なんとか迷彩塗装まで完了しました。制作期間は9年と2週間。
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自走砲のベースとなったオチキスH39のフランス戦車らしい鋳造曲線のボディ。7.5cm対戦車砲を積むために組んだ上部装甲はドイツが得意とする多面体。カッコいいかと言われると微妙ですが、全く違う価値観から生み出されたデザインを組み合わせたハイブリッドな感覚がこの自走砲の魅力です。


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兵士のフィギュアを乗せる代わりにテディベアのぬいぐるみ。ノルマンディ戦の第21戦車師団のマーダー1(オチキスベース)テディベア搭乗車です。

クマはPLUS MODELのTOYセットの中からスカウトしてきました。カムフラージュ用のワイヤーに挟んで倒れないようにしてあげました。

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反対側の車体には乗員が描いたノーズアート。マスコットにしているクマの絵を乗員が描いたという設定です。

模型には油絵具の白を使ってフリーハンドで描きました。事前にサンプル用意して何回も練習してから描いたけど、いざ本番となると手が震えてぎこちなくなってしまいます。反復練習の量が全く足りないんでしょうね。アスリートが「普段通りの力を出していけるように」と言ってることがよく分かります。

それでも、油絵具だと歪んだりはみ出したりしてもペトロールで拭うように描いていけば線もきれいに整えられるから、こういうとき油絵具を使うと便利です。本当はクマの絵は落書き風にしたかったのけど、ヘタウマに仕上げるのは難しい。リアルにヘタだと見てられないし。修正を重ねてつい形を整えすぎました。もっと自由闊達に描けるようになりたい。


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テディベアの名前の由来を調べてみると、アメリカ大統領セオドア・ルーズベルトが狩りをした時に「スポーツマンシップに反する」と手負いの子熊を撃つのをやめた逸話から、彼の愛称(テデイ)をとってクマのぬいぐるみをテディベアと呼ぶようになったんだとか。

ノーズアートのテディベアは、このエピソードにちなんで乗員が願掛けで描いたという設定にしました。弾除けのおまじない。

当初からクマのぬいぐるみを乗せる構想があった訳ではなく、「マーダーコン」の締め切りが迫ってフィギュアを用意する時間がないことがわかった時に、何かパーソナルな感情を表現できるものはないかと苦し紛れに思いついたのがテディベア。

時間のない中でも、1940年代にドイツでどんなテディベアが生産されたのか裏を取ったり、目玉の黒の上にクリアを塗ってツヤを出したり楽しく塗装できました。そしてノーズアートを描いてみたり。結局はどんなアイディアも締め切りがあるから生きてくるような気がします。


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少し時間を戻してメイキングと考察の話をします。

車内に塗られたグレーは、この車両が作られた42年末頃のドイツ軍の標準色:RAL7021。A・ベッカー中佐のパリの改造工場で車両の写真を見ると、改造中の車両は暗い色。43年の2月にドイツ軍の迷彩色がダークイエローベースの3色迷彩に切り替えられて、グレーの上にダークイエローをオーバーペイントした車両を記録写真で見かけます。車内はグレーのままになってたりします。

ノルマンディに配備された第21戦車師団の車両は、44年の春頃までダークイエロー単色のも多かったようで、ロンメル将軍が視察した時の記録フィルムに写ってます。

模型は一年ぐらいの時間が経って上塗りのダークイエローが劣化してきた感じを出すために、シリコンバリアで少しハゲチョロ表現を試みてみました。


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細いラインをランダムに重ねた三色迷彩はノルマンディ戦でよく見かけます。航空機から身を隠すために植生にあわせたグリーンの面積を増やしてダークイエローの範囲が少なくなっていくのもこの頃から。


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モデルにした車両です。鉄十字の国籍マークが描かれてない、などディテールに違いはあります。正確な再現と言うより、この車両の僚車というイメージ。


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迷彩のイメージを確かめるためにイラストレーターでパターン図を作りました。実車はもっと細い迷彩のラインが密集しているように見えます。

1/35の模型の上で1ミリ以下の線を吹き重ねる自信はなかったので、線を間引いてイメージを確認。線を間引いた理由のもうひとつにはグリーンとブラウンを隙間なく吹き重ねて全体に濁ったような色調になるのを避けたかった。というのもあります。


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エアブラシは、ボケ足が小さくなるよう絞り込んで吹きました。1mmくらいの線で吹いたつもりだけど、塗料の量も絞るので、2〜3回同じラインをなぞって色を濃くしたのでどうしても太くなって2mmくらいの線に..

今回はダークイエロー(RAL7028)にいつものMMP。オリーブグリュン(RAL6003)とロトブラウン(RAL8017)はライフカラー を使いました。

MMP(ミッションモデルズペイント)の塗料はアクリル系でも塗膜が強いので愛用してますが、グリーン系の発色が少し弱いかなと思って、グリーンにいい色の多いライフカラーにしました。グリーンはUA216:Verde ScuroとUA060:GreenRLM99の混色で少し青味の強いオリーブグリュンを作りました。ロトブラウンはRAL8017と8012相当色を半々で混ぜたもの。どちらも少しクリアを混ぜて吹いてます。

乗員のヘルメットはノルマンディ戦でよく見る迷彩ヘルメットを選んでみました。グリーンの迷彩を吹いた上からダークイエローで微細な傷を描いてスケール感を出すようにしてます。装備品など目が行くところはなるべく細かく描くようにしておくと全体がその精度で見えてくるから賑やかしでも手を抜けないところです。

足回りの泥ハネは、アクリル溶剤に溶かしたピグメントを筆で弾いてノルマンディ地方の少し赤みのある土の色を表現。当初、雨の中の風景を想定していたこともあって、泥を巻き上げて走ってきたイメージがありました。なのでウェザリングは自分的には少し派手め。

泥で隠れてしまうのだから、仕上がりを考えたら足回りの塗装のハゲなんてわざわざ表現する必要あったのか?

確かに模型塗装を効率的にやるなら完全に不要な作業なのかもしれないけど、塗装を作業と捉えるか、ストーリーを楽しむ時間と考えるかでどっちに立つのかが変わってきます。自分は後者かな。


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第21戦車師団のオチキス改造マーダー1によく見る迷彩パターンはこっち。太いグリーンの帯にブラウンの縁取りを断片的に散らしたパターン。鉄十字の国籍マークは標準的な黒い十字に白い縁のパターンではなく白縁だけ。43年以前のグレー車体で標準だったものを44年でもまだ使ってます。

イエローベースでこの白縁だけの十字を描くとダークイエローの上では目立たないので、じっさいどうしてたのか観察してみると十字の下に迷彩色を塗り広げて、その上に描くように工夫しています。これに倣って模型にも迷彩色の下地を作ってから描きました。

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塗装のモデルにした車両は、複数アングルからの鮮明な写真が残ってます。車体のディテールは少し違って、誘導輪がオチキスH35で使われた穴あきタイプ。ボディ上部の防雨テント止めのパイプが偽装フックより下についてるなど、標準仕様とは少し違います。ひょっとして初期ロットなのかも。

模型はどっちかというと標準仕様のディテールで再現してます。標準的な迷彩パターンで仕上げようと思ってた頃があって、その時の気分の名残です。

..何というか、やっぱり他の人がまだやったことないことしたいんですよね。標準的な迷彩パターンで仕上げた作例はネットでいくらでも観れるから、自分は未だ見たことのないものをやりたい。という病いは治らないんでしょうね、死ぬまで。


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テディベアが踏み台にしている救急箱は考証的には少しアヤシイ。車内のどこかに装備されていたはずですが、クマのために今回そこにつけました。レッドクロスのマークがカワイイから。という模型上の演出なので念のため。

9年前に作り始めて、塗装中に手を止めたまま、長い時間が過ぎて、ようやく形になりました。車内の風景を見てると懐かしさがこみ上げてきます。

…無線機の配線、弾薬ラックなど資料を探して考証にのめり込んでた頃を思い出します。トランスミッションはオリジナルのオチキス戦車の色が残ってる設定でフランスらしいグリーンとブルー。その頃は模型用塗料もあまり持ってなくてリキテックスで塗ったことを覚えてます。ミグ・ヒネメスのウェザリング塗料が便利と聞いて買ってきて車体の床をそれで汚したのが初めてのウェザリング。戦車の奥の方に9年前の自分が今もいます。


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この間までTwitterで行われてた「マーダーコン」で賞をもらいました。
途中からの参加も快諾していただき、9年越しの模型もようやく完成。

どうも人生にも締め切りがあるようだし、ひとつひとつ答を見つけて行きます。

主催の K.Nさんにあらためて感謝。ありがとうございます。






Commented by hiranuma at 2021-06-05 07:41 x
いつの間にやっていたのか世間は広いというか色々とお知り合いがいあるのですね。
実車を元に検証された塗装表現がリアルです。
Commented by hn-nh3 at 2021-06-05 21:47
ここ2週間ほど、こっちに専念してました。その気になれば2週間で何とかなるもんですね。いつもなら2ヶ月、2年と普通に時間かけてしまう(笑)
ヘッツァーChwat号のウェザリングをどうするか考えていて、勘を取り戻すためにこれを完成させてみようと。

時間があれば傘さしたフィギュアを配置した雨中のシーンを作りたいところです。それはまたいつか
Commented by デビグマ at 2021-06-06 18:06 x
スミコンに没頭してると思いきや。。マーダー完成したんですね。作りこまれた内部やワイヤーを張り巡らせてぶら下げた装備品など、見どころが多くて飽きませんね~こんな魅力的な作品を作ってみたいもんです。ヘッツァーもこっそり楽しみにしておりますよ~
Commented by hn-nh3 at 2021-06-07 22:06
デビグマさん
MM世代としては戦車にいろんなものをぶら下げるのがお約束です。 そして、履帯やヘルメットは車体に直接くっつかないよなーと思い始める頃に引き返せない趣味に... 笑
という訳で縛り付けるワイヤーは大事なのです。

車内の双眼鏡の下に敷いているのはカーン付近の地図。ネットで地図を探してプリンターで作ってみたのですが、印刷が荒くて何がなんだかわからなかったですね。

ヘッツァーもデカール貼ったり、密かにゆっくりと進んでますよ!
by hn-nh3 | 2021-06-04 18:35 | Hotchkiss系列 | Comments(4)