Matilda Go To Russia

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第二次大戦中、ドイツ軍に攻め込まれたソ連を支援するために、アメリカとイギリスからソ連に大量の軍事物資が(実質無償で)供与された。レンドリース法のプログラムでイギリスのマチルダ歩兵戦車も1941年の秋から43年にかけて916両がロシアに到着している。速度は時速24kmと遅く武装も貧弱(2ポンド砲 口径40mm)ではあったが装甲は最大70mmの厚さで当時としては破格の重装甲。冬のモスクワ攻防線、そして42年夏の南部ロシア防衛に投入されて後退戦のなかで消耗していきます。


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戦場で撮られたマチルダの写真は思いのほか大量に残ってました。鋳造装甲の曲線を活かした車体と足回りにも装甲板を張り巡らせた重武装ぶりが印象的だったのか、同時期に送られたバレンタイン戦車(3332両)よりもドイツ兵がマチルダ戦車を好んで写真に撮ったようで、ちょっと調べただけでも100両以上のマチルダの写真が見つかります。

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(リスト増補改訂版はこちら>Matilda Go To Russia Part.2)


ソ連軍は送られてきた車両をそのまま前線に投入したので英軍の車両ナンバーが車体側面と後部に残っています。これを読み取って車両番号の順に並べて、ソ連軍が砲塔に描いた戦術ナンバーや車両毎のディテールをリスト化してみました。

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1/35スケールのマチルダ戦車のキットはタミヤがMMシリーズのno.300でリニューアル、2017年にソ連軍仕様のバージョン(no.355)がリリースされています。悪路の走破性能を向上させた後期型の履帯、上部転輪を廃止して泥詰まりに対応したスキッドを装備、簡略化された側面装甲などが新パーツで用意されてます。ソ連戦車兵のフィギュアが2体、デカールは2種類。

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ソ連戦車(赤軍)の魅力は車体にデカデカと書かれたキリル文字のナンバーやスローガン。写真左の車両のマーキングがタミヤのキットで再現できます。写真右の車両は1942年5月の第二次ハリコフ戦の時期のものですが、このマーキングはエシュロンデカールに収録されてます。

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エシュロンデカールのこのシリーズは11種類のマーキングに加えて車体側面の渡渉ラインやコーテーションをデカール再現していているのでこれを持ってると完璧なソ連マチルダが再現可能です。現在は入手が難しくなってしまっているようなので、どこかで在庫を見つけたら即買いです。


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タミヤのマチルダ戦車のキットの面白いところは、説明書では特に触れられてないバリエーションパーツが入っていることです。2ポンド砲の砲身は段付きとテーパー型の2バージョン。マチルダ戦車の主砲:オードナンスQF 2ポンド砲は徹甲弾しか使えなかったために、榴弾(76mm)を撃つための支援戦車(CS型)が別に用意されてました。タミヤのキットにはこのCS用もセットされていて合計3本。スライド金型を使って砲口も開口済の砲身が入ってます。

NewVanguardの"Soviet Lend-Lease tank of World War II” の記述(p46)によれば、2ポンド砲搭載型が807両、CS型が125両。



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砲塔キューポラも説明書で指示されている背の高いタイプの他に、低いタイプがさりげなく入ってます。低いタイプのキューポラをどのバージョンで使えばいいのか何の説明もないから、そのパーツがあることすら気がつかない人もいるんじゃないかな。なんだかシークレットアイテム扱い。

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車体後部の牽引フックも2種類作れます。増設燃料タンクを搭載するためのラック付き(B)、取り付けガイドの残ってるタイプ(G)。そして戦場でよく見かける牽引フックのみ(O)のタイプはちょっとした改造で再現できます。このB(ブラケット付き),G(ガイド付き),O(フック)という呼称はオーソライズされたものではなく仕様整理のために個人的に振った記号です。

英軍車両はドイツ戦車やアメリカのシャーマン戦車のように細かいバリエーションを解説した本がないので、戦場で見かけた気になるあの娘を作るには、どれとどのパーツを組み合わせて使えばいいのかさっぱり分からない。

人に聞いても分からないなら自分で作ってしまえと始めたのが、さっきのマチルダ一覧。

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そして、ソ連のマチルダにさらに深入りするなら側面装甲のバリエーションも要チェック。履帯が巻き込んだ泥を排出するための穴の両端の開口部の形にどうやら微妙な違いがあるみたい。

3のタイプはタミヤのキットで再現されているもので四角い穴の端部に前後それぞれスリット。4のタイプは前部のスリットがなくなって後部のみ残っている。5は後部もスリットなしでネジ穴の開いたプレートが露出しているもの。6は4の逆バージョン。

この側面装甲のバリエーションはセータ☆さんが解明しているので、詳しく知りたい人はそちらを参照してください。
ちなみにバリエーションの3〜6の記号はセータ☆さんの分類に従ってます。

バリエーションの変遷がどういう順序になっているのかは正直よく分からない。車両番号(WDナンバー)の順に並べて整理したら分かる気がしたけど予想は見事に裏切られました。おそらく複数の生産工場毎に車両番号が割り振られていて、仕様のアップデートと番号の順番が対応してないのが原因だと思います。


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イギリスからソ連に向けて船積みした時の写真を見ても、手前の車両はT.82111、奥はT.27778と同時期に複数の生産ラインがあったことが想像できます。バレンタイン戦車だとNewVanguard本に生産工場別のWDナンバー割り当てが掲載されてるのだけど、マチルダ戦車はいくつかの資料本でも該当するデーターが見つからないので、解明にはもう少しリサーチが必要。


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タミヤのマチルダ戦車は組んでみるとわかるけど、とてもいいキットです。説明書そのままに組めば週末のうちに完成してしまうほど簡単で、ディテールの再現度、完成度もとても高い。モデラーに使い方が委ねられたバリエーションパーツも入っているのはこの時期のタミヤのキットの特徴でなのか、II号戦車C型にもそんなのあった。

気になるところがあるとすれば、履帯のセンターガイドの穴が金型の都合で抜けてないところが唯一の欠点。しかし、これも組んでしまえばほとんど目立たなくなってしまうから、スルーしても問題になるほどではないです。センターガイドの穴を再現した履帯セットがBroncoが出しているから試しに使ってみたけど、色を塗ったら多分、自分でも違いが分からないと思うよ。

次回は側面装甲のバリエーション再現のための改造とパーツの細かい使い分けの話。

Commented by みやまえ at 2021-08-14 23:10 x
すばらしい!参考になります!
Commented by hn-nh3 at 2021-08-15 07:48
みやまえさん
タミヤのマチルダのキットの謎は、この他にも無線機アンテナポストが2タイプ用意されていて、砲塔に取り付け用の隠し穴もしっかり用意されているのに説明書では何も触れられてないんですよね。
砲身、キューポラ、無線機アンテナの選択パーツはno.300のアフリカマチルダのランナーに入っているもので後期型のソ連マチルダで生きてくるパーツですが、no.355のソ連マチルダを発売する時に当時の担当者の意図が引き継がれなかったんですかね。
Commented by みやまえ at 2021-08-15 13:02 x
当時の設計者が(我々にとってありがたいことに)気を利かせてオマケをつけてくれたのを、社内政治的に「要らんコストかけやがって!」とかで黙殺されてたりして・・・
もしくは、タミヤはデカールのパターンをケチりたがるので、キット指定の塗装パターンにないバージョンは黙殺とかでしょうか・・・
ともかくなんか変なことする会社ですね、タミヤって。
Commented by hn-nh3 at 2021-08-16 05:34
ドラゴンのキットにもよく選択パーツが入っていて説明書に選び方が書いてなかったりしますが、実際でもマチマチだからというようなことを高田さんが言ってましたが、
それとは違って、選択パーツであることすら示されないのは謎です。砲身だってスライド金型つかって砲口開けたの3本用意してるのに不要パーツ同然の扱いなのはもったいない。

デカールはもっと充実させてほしいですね。4種類ぐらいから選べれば仕上げの自由度はもっと高くなるんですが..
Commented by かば◎ at 2021-08-16 15:31 x
この分類は非常にありがたい!
タミヤのマチルダ(もちろんソ連バージョンのほう)はちょっとだけいじって仕舞ってありますが、再開時には大いに参考にさせて頂きます。

個人的には、渡渉ラインのデカールは入れておいてほしかったなあ……。

しかし、hn-nhさんはタミヤフェスの今後の製作に向けて着々と進んでおられるようで……って、参加アイテムはマチルダじゃないじゃないですか!(笑)
Commented by hn-nh3 at 2021-08-16 20:34
かば◎さん
SUMICONでマチルダをとも迷って仮組みしてみたら、あれよあれよと組めてしまって..(笑)ウォーミングアップですね。

渡渉ラインと注意書きはどの車両でもあるから、タミヤには(ラインはマスキングで描いたとしても)注意書きの文字はデカールで入れておいて欲しかったですね。
実車では殆ど確認できないスローガンの類はデカールに入ってるから、そのスペースあるなら渡渉ラインを優先で入れて欲しかった!

タミヤのボックスアートになった車両(T.35163)には渡渉ラインが描いてないからデカールにも入ってない?? と写真を観察したら、うっすらとやはりラインはありましたね。被弾痕で文字は見えにくくなってしまってるけど。

エシュロンデカールの渡渉線デカールも持ってるので余ったの差し上げますよ。
Commented by セータ☆ at 2021-08-16 23:36 x
>>タミヤのボックスアートになった車両(T.35163)

車体側面の「黄色△とБ-2」は、僚車の写真では操縦手前面と車体後部にも描かれいるので T.35163 にも描かれていた可能性が高いですね。操縦手前面と車体後部のものは「Б△2」と横並びになっているはず。実車写真ではちょうどここにドイツ兵が立っていて隠れてます。

あと装填手(だっけ?)ハッチの一部とベンチレーターカバーが白く塗られています。以前砲塔上面図で検証したんですが、天板に味方航空機識別用として白で大きく「□」が描かれているようで、これは僚車も同様です。キューポラの方は回転してたまたま白く塗られている部分が見えないみたい。
Commented by hn-nh3 at 2021-08-17 07:01
セータ☆さん
>>実車写真ではちょうどここにドイツ兵が立っていて隠れてます。

あぁ!よくある「ちょっとそこどいてくれないか案件」ですね。操縦手前面の兵士の影に隠れてるとは。そこにマーキングがあるのは珍しいですね。
僚車の写真で後部が写っているということは、タミヤのキットの後部牽引具と無線機アンテナの仕様はそれを参照してるのかしら?

ハッチの白ペイントはやっぱり対空標識なんですね。角度的に△ではなさそうだけど、□も配置が砲塔の中心軸とはずれてる?
Commented by かば◎ at 2021-08-20 21:34 x
>>エシュロンデカールの渡渉線デカールも持ってるので余ったの差し上げますよ。

なんとありがたいお申し出。
まあ、昨今の情勢からすると、お会いできるのは2,3年先、なんてこともありそうですが、たぶんそれまでに我が家のマチルダが塗装まで進むことはなさそうな気もするのでまるっきりOKです。
さあ、hn-nhさんに、代わりに何を押し付けよう(笑)。

セータ☆さんのコメントにある、「T.35163」の砲塔天井の白標識、単純な四角じゃないような感じで、どうなってるのか気になりますね。
せっかくキットにデカールが入っているからには活かしたい気がするのですが、これじゃおいそれと使えない……。
Commented by hn-nh3 at 2021-08-21 08:44
「T.35163」の砲塔上面の標識をハッチに描かれたパターンの角度から推測して平面図に重ねてみました。
https://imgur.com/LB5CFou

図形が■だとすると中心線から5度くらい傾いていることになるけど
そういうものなのか...
Commented by デビグマ at 2021-08-22 20:31 x
マチルダ好きなんですよね~リニューアルした時はガッツポーズしましたよ。シークレットバーツは、オーストラリア軍のバージョンの布石かと思ってたんですが、出ないですね、さすがに。。第2弾も楽しみにしております。
Commented by セータ☆ at 2021-08-22 23:03 x
>>図形が■だとすると中心線から5度くらい傾いている

そうそう、私がやってみた画像はどこかに行っちゃったんですが、やはりそんな感じに傾きました。ハッチの白部分を基準にするとそうなっちゃいますよね。

僚車はまた違った角度で傾いて、ホントか〜とちょっと不安になりますが。
Commented by hn-nh3 at 2021-08-23 06:56
デビグマさん
マチルダのオーストラリア軍仕様もアリですね。エシュロンデカールでもオーストラリア軍のマーキングあるし、キットで出たら売れそう............??
これがミニアート だったらパケージ、デカール替えで絶対に出してくるでしょうね。パーツ追加してフロッグ火炎放射型なんてのも。

工作は基本的にはもう完成していて続編も近日中にアップしますよ。写真撮ってるとまた気がついてしまってもう一度手を入れたりして...
Commented by hn-nh3 at 2021-08-23 18:10
セータ☆さん
航空標識のバリエーションを確認しようと思って写真をつらつらと眺めてましたが、上から写すことの少ないから意外に写真が見つからないものですね。
https://imgur.com/a/3eSdyxW

模型映えのするマーキングですが、どのくらいの割合で標識を描いてたんでしょうね。
by hn-nh3 | 2021-08-13 11:53 | マチルダ | Comments(14)