ターレットトラック:足立市場にて(後編)

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前回に続いてターレットトラックの足立市場編、後半。

見慣れない顔したターレは関東機械センター製の「マイテーカー BN-33」(>カタログ)。2016年登場のニューフェイスで電動モーターで駆動。従来のガソリンエンジン型マイテーカーの後継機種になります。ここ数年、豊洲市場でもちょいちょい見かけるようになってきたけどまだまだ少数派。今どきの車のデザインを意識したようなLEDのヘッドランプが目を引きます。クールホワイトと蛍光オレンジの配色はターレというよりスニーカー。

ボディに書かれた屋号の「北足立千銀」は構内の青物問屋の名前。足立市場は水産物専門の卸売市場ですが、青果を扱ってるエリアも少しありました。街の料理屋さんが魚の仕入れに来て、ついでに刺身のつまとか野菜もちょっと欲しいなというニーズは確かにあるよね。

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青果売場は隣の水産棟より二回りくらい小さな建物の中。野菜や漬物、昆布など乾物を売ってます。ここでちょっと珍しい青ザーサイ買いましたよ。他にもクワイなど街のスーパーでは見かけない野菜もいろいろありました。水産棟の喧騒に比べて野菜売り場はいつも穏やか。どこの市場でもこれは同じで野菜売り場に来ると少しほっとする。水産物と青物では働いてる人の気質の違いがあるのかな。


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水産棟の奥に細長くがらんとした場所があります。ここがセリ場です。5時半くらいの早い時間に行けばセリの賑やかな風景が見られるのかも。

ただし築地や豊洲の市場を見てきた感じだと、その日に入荷した魚の全てがセリに掛けられる訳ではなく、値段が安定している定番商品はセリに掛けないで直接に仲卸に渡されるものも多いです。これを相対取引(あいたいとりひき)と言います。だから期待して見ててもただ発泡スチロールの白い箱が静かに運ばれていくだけだったりします。メディアで紹介される市場の賑やかな映像って誇張されたものが多いけど、実際はお祭りのような騒がしさは全然なくてセリだって淡々と進んでいく。毎日のルーティンだからね。

7時にもなるとセリ場は閑散として電動ターレの充電場所になってました。仕事を終えたターレがコンクリート柱の電源ボックスにプラグで接続されてます。バッテリーの駆動時間はカタログ値で60分と意外と短い。荷台の下のバッテリーボックスには鉛蓄電池がぎっしり入ってます。バッテリー重量が電動ターレの弱点で従来のガソリンエンジン車に比べて積載量の制約を受ける。だから最近はリチウム電池を導入する方向にあるのだとか。


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セリ場と仲卸売場の間のコンコースに止まっているのはニチユ製のエレトラック。通路の奥には通常の黄色ボディの車両、手前は青いボディカラー。セリ場で充電中のターレは1台が珍しい茶色のボディカラー、構内でブラックも2台ほど見かけました。エレトラックのブラックボディはここ足立市場で初めて見たかな。傾向として東京の市場のターレはわりと地味。大阪とか京都だと赤とかパープルのカラーもよく見ます。西と東で色の好みに差があります。

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ターレに冷凍マグロを載せてるのは、カチカチに凍って荷台の振動で痛む心配がないからで、生のマグロはだいたい手押しの「小車(こぐるま)」で運びます。だからターレが導入される前の古い運搬具の生き残りでもなんでもなくて、「小車」は魚市場からなくなることのない道具です。形はスリムにした大八車と言った感じか。古いものは木製、新しいのはステンレス。荷台には店の屋号を入れることが多い。車輪は鋳鉄のスポークにノーパンクタイヤとタフな作りになってます。最近は小車にも電動タイプ(>カタログ)が登場してます。市場も働きかた改革の時代でしょうか。


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街中では見かけない荷車もいろいろとあります。木製荷台の4輪台車は市場では「ねこ車」とも呼ばれてます。3輪の手押し車はなんという名前なんだろう。荷台の背の鉄板が錆びてボロボロ、手摺はよく見ると皮を巻いてるようでかなりの年季入り。この手押し車には電動タイプ(>カタログ)もあります。


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仲卸の売り場から少し離れたところにあるのが買荷保管所。かつての築地市場では「茶屋」「潮待ち茶屋」なんて呼び方もしてました。由来は江戸時代、日本橋に魚河岸があった頃に運搬の小舟の出し入れするのにそこで満潮になるのを待っていたからで、今は買付人が仲卸から買った魚を各エリアに配送するトラックに積み込む屋根付きの待機スペースです。街のお魚屋さんは仕入れた魚を自分で運ぶ訳ではなく、配送のトラックで店まで持ってきてもらってます。


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市場の構内をうろうろと歩き回っていると、ぽつんぽつんと「空地」が目につきます。元々はそこにも仲卸が店を構えていたと思われますが、撤退したまま新規参入もなく、なんとなくターレの置き場になってます。時代の変化を感じます。この20年で流通が大きく変化してます。スーパーや飲食チェーンで「〇〇漁港直送!」なんてフレーズを目にしますよね。大手の流通業者が産地と直接取引するなど、今は卸売市場を通さない取引が増えてます。90年代が築地市場での流通のピークだったと言われてます。 街の魚屋さんもずいぶん減りました。


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足立市場のある千住といえば江戸時代は日光街道の最初の宿場町でした。『奥の細道』を記した俳人、松尾芭蕉は住まいのあった深川から舟に乗って千住大橋で降り、ここで門人たちに別れを告げて旅立ちます。

 行春や 鳥啼魚の目は泪
(ゆくはるや とりなきうおの めはなみだ:晩春に鳥は別れを惜しんで泣き、魚の目にも涙が浮かんでいる)


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旅の収穫。足立市場で買った青ザーサイです。新鮮な搾菜(からし菜の一種の青菜頭(チンツァイトウ)の茎)を塩で浅漬けにしたもので、食感はパリパリとして爽やかな味がします。ザーサイというと茶色く少しすえた匂いのする癖のある味の食べ物というですが、そのイメージが全く覆ります。フレッシュな青ザーサイにはごま油をちょいと垂らして食うのが美味いと、市場に連れてもらった織部さんから教えてもらった食べ方でその晩の酒のつまみに。





by hn-nh3 | 2022-11-23 16:03 | ターレットトラック | Comments(0)