断片的思考のメモ


by hn-nh ( or hn )

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雨のノルマンディ

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ノルマンディに展開した第654重駆逐戦車大隊。ヤークトパンターの搭乗員が傘を差す有名な写真。

本当はロレーヌシュレッッパー自走砲の乗員が雨の中で傘を差しているシーンを作りたかった。塩ビ板をヒートプレスしたら開いた傘ができるかな、とあれこれと構想は練っていたものの結局、時間がなくなってしまい断念。ジオラマのタイトルは「雨のノルマンディ」と決めてたのに。

戦場で傘を差している写真は意外なほど少ない。確かに傘なんか差してたら片手がふさがってしまって武器の操作に支障をきたすから、雨を凌ぐにはレインコートを着るのが正解なんでしょう。

ヨーロッパで傘を差すのは英国人だけ、という話もあるくらいヨーロッパは傘を差す習慣がないみたい。
調べてみると、傘はあちらでは雨傘ではなく日傘として発展して、それをイギリス人が雨の日にも使うようになった..という歴史があったり、フランスの子供は危険防止のため傘を持たされないこともあり、傘を差す習慣が身につかない、という記事もあった。コートで間に合う雨では傘は使わないのがあちらの流儀なのか。そういえばヘルシンキに行った時、季節は秋で何度か雨にh降られたけど、みんなレインパーカー着て傘もささずに歩いてたのを思い出します。

そんなこともあってか、模型に傘を使いたいと思って探してみたものの、傘が付属するキットの少ないこと。MiniArtのフィギュアやジオラマアクセサリーでは帽子やステッキ、カバンの類はいろいろなキットにアクセサリーとしてパーツ化されているけど傘となると....
ブロンコから「民間用スーツケースと傘のセット」というそのものズバリのキットも出てますが、閉じた状態の傘はちょっと造形が硬いんですよね。他にもいいのがないか探していたら、MasterBoxの「ヨーロッパ 女性用自転車+婦人」セット(MB35166)に女性用の傘が入っているのを発見。

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早速、調達しました。畳んだ傘の襞の柔らかい雰囲気があって、ディテールは悪くないです。傘の先の部分が金型の抜きの関係でモールドが甘くなっているのを少し削り込んで調整すればそれで十分。このくらいエポキシパテこねて作れるでしょとか、製品使うなら露先の突起を伸ばしランナー植えて再現しなよ、とか模型の神様がささやく声が聞こえてきますが、それはまた今度ね。

夏の初めに雨のシーンを再現しようと思い始めた頃、ノルマンディ地方に実際、雨は降ったのか?と気になって、1944年6月6日のD-Dayの前後の天候を調べてみました。


ありましたよ、天気図が。低気圧の前線が6月4日から5日にかけてノルマンディ地方を通過しています。それで海は大荒れ、当初は6月5日を予定していた上陸作戦も延期。ドイツ軍も油断していたようです。上陸作戦は6月6日の早朝に始まります。

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ジオラマ製作は断念したものの、車両のウェザリングとあわせてちょっとした演出をしてみます。連合軍のノルマンディ上陸の前日、6月5日の様子を小道具で追加製作。写真の右2つはトラベリングクランプの操作桿(破損紛失してしまった部品の再生)、車内にセットされている射標(射角補正表)はプラ板でベースを作った上にPassionModelsの自走砲デカールセットを使用。
そして写真左の小物。雨の日に借りた傘、塗装は油彩で。そして前回の記事で紹介した読みかけの小説、サンテジュグペリの「夜間飛行」

乗員はドイツ兵なのに何故、フランス語で書かれた本を読んでいたのだろう。
雨を心配して傘を持って来てくれた地元の女性との出会いが「彼」にフランス語の本を読ませたとも考えられるし。「彼」はアルザス地方の出身でドイツ軍に招集されたドイツ系フランス人だったから。という想像もできる。全てフィクションではあるけど。

7月31日にサンテジュグペリが飛行中に行方不明になることは、本を読んでいたその時には想像もしなかっただろうし、8月12日に彼のいる部隊もファーレーズで包囲されてしまって、そのニュースを聞くこともなかったのかもしれない。...それも想像の領域。

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by hn-nh3 | 2018-12-10 21:22 | 資料 | Comments(5)

NIGHT FLIGHT

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「夜間飛行」1931

香水の名前のことではなく、ましてやPerfumeの曲の名前のことではなく、今日は本の話。
原題”VOL DE NUIT” 1931年に出版されたサン=テグジュペリの小説。


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サン=テグジュペリは日本では「星の王子様」(1943 )の作者として有名。飛行機のパイロットとしての経験が小説に色濃く反映されています。1935年にはサハラ砂漠に激落して生存が絶望視されたことも。
そんな体験が、星の王子さまの世界にも繋がっているとか。
そして、1944年7月31日。コルシカ島から偵察飛行に飛び立ったまま行方不明。

(ドイツ軍機による撃墜:彼の名前はドイツでも知られていて、彼の乗機だと分かっていれば...ということだったようです。)

というぐらいのことは知っていたものの、1944年にコルシカ島から出撃... ? ? と、サン=テグジュペリはどこの軍に所属していたのか、ふと気になって調べてみたら、自由フランス軍だったんですね。
1940年にフランスがドイツに降伏した後、彼はニューヨークに亡命。1943年に亡命フランス人で組織された自由フランス空軍の北アフリカ戦線に志願。1944年7月に行方不明になった彼の乗機がどうなったのかは長らくわからなかったものの、1998年にマルセイユ沖に沈んでいるのが発見されたんだそうな。

プラモブログなのに、なんでこんな話をしてるのかというと、制作していたロレーヌシュレッパー自走砲の中に「忘れ物」として置くのに何かないかしらと考えていて、銃器の類では乗員の顔が見えてこないし、フランスパンやワインといったものを戦車内に持ち込むの何か違うでしょ..で、ふと思いついたのが読みかけの小説。

それで、同時代の本として思い出したのがサン=テグジュペリの「夜間飛行」

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この本を1/35の模型世界で再現してみます。1931年のガリマール版は 実寸で12cm×19.5cm。本の表紙と裏表紙、中のページの写真をネットで探して、フォトショップで画像の歪みを補正、イラストレーターで1/35縮尺に縮小レイアウト。コンビニのカラーレーザープリンターで出力して切り抜いて組み立てました。

模型用の画像データーにプラモのランナーがついてるのは余興です。

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小さい.. 豆本というジャンルがあるけど、これはとても読めるサイズでは無いですね。
プリンターの出力解像度も限界なのかドットが荒く見えます。コンビニの機械じゃなくて、もっと高性能、高解像度のプリンターを使わないとこのサイズだとディテールが甘くなってしまう。

今回の1/35の夜間飛行の「初版」はとりあえずこのくらいで勘弁してもらって、いつか増版することがあれば、その時はちゃんとした出力センターに行こうかしら。データー欲しい人がいたらあげます。

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あ。もちろん、Perfumeの NIGHT FLIGHT だって好きですよ(笑)

by hn-nh3 | 2018-12-08 18:33 | 資料 | Comments(8)

フリウルを黒染めした日

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製作中のロレーヌシュレッパー15cm自走砲の履帯にフリウルのホワイトメタル製連結履帯。
履帯のガイドホーンの間隔と上部転輪の幅がぴったりすぎてなかなか通らなくて試し履きをするにも一苦労。結局、上部転輪の裏側をヤスリで削ったりして... 苦労して嵌めたところで力尽きて、撮影した写真を後から見たら転輪が一つ外れてしまってました。やれやれ。

連結式のメタル履帯は強度もあるし、垂れ下がり方も自然でいいのですが、塗装はネックですよね。
可動部の塗装が難しかったり塗っても剥がれやすかったりと、やっぱり金属自体を発色させる黒染めが仕上がり的にはリアル。今回は、AKの黒染め液(メタルバーニッシュフィールド)を使ってフリウル履帯の黒染めで仕上げてみます。

実は私、初めてなんです… 黒染め。
したことないからなんとなく気後れして数年前に買った黒染め液を今日の今日まで後生大事に保管してましたよ。

でも.. 今日は覚悟を決めて、ついに黒染め初体験!

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先ずは染色液に漬け込む前の下処理。
繋いだ履帯のクリーニングには酢に台所用洗剤を少し混ぜた溶液を使用。電動歯ブラシでホワイトメタル表面の離型剤などを落としていきます。そして一晩漬け込んでメタル表面の酸化皮膜を溶かします。これが残っていると染まりが悪いようです。洗剤は数滴でよい、とのこと

酢は使い捨てになるので安価なものを、とスーパーに行ってみたけど…難しいですね。イージーなお酢は成分を見ると出汁とか果汁とか添加物がいろいろ。フリウルに昆布出汁がどう影響するかは未知数です。結局家にあった純米酢を使いましたよ。
洗浄作業は酢酸液に洗剤の爽やかな香りも混じってフリウルでピクルスでも作ってる気分。

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漬け込んで一晩たったら、酢酸と洗剤の混合液から引き上げ、水洗いして乾燥。履帯のホワイトメタルは艶が消えて鈍い灰色に。光沢が残っているところは離型剤や接着剤で表面が覆われている可能性があるので、そこは染まらないからもう一度酢酸液でよく洗浄。この時の色ムラが黒染めにもそのまま影響するから要チェック。

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さて、いよいよ黒染め。100円ショップで買った底の浅いポリプロピレン容器に黒染め液を履帯がヒタヒタになるくらいの深さに注ぎます。綺麗な青。成分はなんだろう。瓶には書いてないからよくわからないけど硫酸銅かしら?

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黒染め開始。電動ハブラシで隅々まで溶液が行き渡るように磨きながら様子をみます。みるみると黒くなっていきます。ものの1分くらいで黒くなります。思ったよりも短時間。頃合いを見計らって引き上げ、水洗いして乾燥。あっという間に作業は終わりました。

酢酸液での下処理が悪いと表面の不純物が析出して白い斑点が出来ることもあるようですが、今回は特にそれもなくラッキー。

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染めむらが出たら引き上げて、クリーニングしてからもう一度漬け込み。その意味でも最初の漬け込みは少し色浅めぐらいで引き上げて様子を見て進めるのがコツかも。

染め時間が長くなると黒錆色より赤錆色が強くなる様子。漬ける時間が長くなると反応が進み過ぎて表面が荒れてくるとのこと。黒染め液から引き上げて水洗いする前に放置しておくと赤錆に。車輌の表現に合わせて、この辺りのさじ加減は...何事も経験ですね。

黒染め液の温度で反応時間も違うようです。冷えてると反応が遅いとか。この時は室温20度くらい。

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水洗いの後、乾燥させるとこんな感じ。今回作っているのは歴戦の車両ではないので、もう少し黒の段階で止めてもよかったかな。ピンの頭を固定した瞬間接着剤のはみ出しで黒く染まってない部分ができてしまいましたが、このくらいは油絵の具でレタッチします

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あっという間に終わりました。まだもう一回ぐらいできるかしら。
綺麗な色のグラデーションを描く使用後の黒染め液をとりあえず元の容器に戻します。
廃液は有害なので下水には流せないらしく、処分するなら新聞紙に吸わせてゴミの日に。

でも燃やしたら、成分が大気中に放出されそうだし... なにがいいのかはわかりません。

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作業は全て使い捨ての手袋つけて行います。履帯自体が鉛を含んでいるし、黒染め液も有毒成分があるので手につかないように作業を進めます。終わった後、手袋を裏返してゴミも一緒にくるんで捨ててしまうと後始末が楽です。

黒く染めは結構あっという間で設営から掃除まで合わせて30分もかからないくらい。
酢酸液での洗浄が必要無かったらもっと簡単なのに…

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と、思って比較実験してみました。
連結済みのピースは酢酸液で洗浄、下処理してから染めたもの。バラのピースは下処理なしで黒染め液につけたもの。何もしてないと染まり方は悪いです。時間をかければできないことはなさそうですが、やっぱり下処理してからの方が綺麗に染まります。手抜きはできない、ということかしら。


余談。
ここまで読んで気づいている人も多いと思いますが、黒染めの方法は四谷仙波堂のホームページにあったAK黒染液の解説記事に多くを依っています。 しかし、四谷仙波堂は惜しくもこの9月で閉店。
ホームページも閉じてしまったので、ノウハウはどこかに書き留めておく必要あると思って記事にしておきます。

思えば、店主の製品紹介記事の批評的な視点は、たかが模型(商品)と、されど模型(再現)の間の溝に橋をかけるようなところがあって、初めてそのサイトを見たときは衝撃を覚えましたね。ネットの向こう側にいるモデラーに個人で模型を売っていくスタイルを見て、いい時代になったとその時は思ったものです。

インターネットは個人を拾い上げるツールとしてはとても優れているけど、個人的にビジネスをするには、実は向かないような気もします。ロングテールを狙った商品構成なのにWEB上では在庫確認ができないなどページ作りの欠陥もあったにせよ、話題の新商品に切り込んでいく言説のスタイルが、逆説的なパラドックスを抱えてしまっていたような。

実際問題、たとえば5000円の商品を一日何個売らないといけないのか、家賃経費と仕入代金を払っていくら残るのか、とか。想像するだけで本当に大変

どの分野でも個人でビジネスを続けるのが難しい時代になってきているような気がします。ここ最近。

by hn-nh3 | 2018-11-17 18:53 | 資料 | Comments(2)

タビメモ

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旅先での写真から。
フランス、アルザス地方の平野部。ライン川西岸の乾いた黄褐色の土、雨が近づく空の光の色。9月。

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南部ドイツの田舎のあぜ道。砂利混じりの乾いた道の轍に沿って点々と生える雑草。よく見ると低い地這性の植物とロゼット状に伸びる草の濃いグリーンの2トーンがあることがわかる。

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道端に生える芝草の類。一様なグリーンではなく、ひとつひとつ独立した草株が密生して一面のグランドカバーを形成。一面の緑のカーペットではなく、疎らに地表面が残っているのが自然。

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少し丈のある下草。高さは30cm~50cm程度。すみません名前はわかりません。「ヨーロッパの雑草図鑑」なんていう便利な本はないのかしら?

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これは、タンポポですね。なんだ、ドイツも日本と生えてるものは変わらないんだね.. というより日本の野山に咲いているタンポポの殆どは、ヨーロッパ原産のセイヨウタンポポ。いわゆる帰化植物。

植物の国境は曖昧です。近所の空き地なんかでよく咲いている白いヒメジョオンも江戸末期に移入されて明治の頃にはすでに雑草化してたんだとか。
その逆でススキは園芸植物としてヨーロッパのあちこちの庭園で栽培されてましたね。日本原産のギボウシもあちらではホスタという名前でナチュラルガーデンの必須アイテム。農家の庭先の花畑もエキナセアとか日本の園芸ショップで売ってる花と変わらず、流行はワールドワイド。世界中の植物はオランダに集められて世界中に拡散しています。

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ドイツ南部の小さな街の石畳の表情。ヨーロッパの旧市街の路面は必ずと言っていいほど石畳。舗石というとモノトーンなイメージあるけど、使っている石は意外に色とりどり。白やグレーだけでなく赤っぽい色の石も混じってます。赤御影ではなさそうだからチャート石の類? 前にプラハの石畳は何色なのか調べたことあったけど、その時も意外に赤っぽい石を使っている写真が多かった。そういえばヘルシンキの石畳も赤みが強い石。

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石の隙間に生える雑草。基本的には石畳の作り方は下に砂利や砂を敷き詰めて石を叩き込んで動かないようにするから、草は生えにくいはずだけど、長い間に落ち葉や土が隙間に溜まったのかしら。写真を撮った場所は小さな教会のある広場の片隅でそこが影ができやすく、いつも湿ってるので草が生えたのかも。

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マンホールと石畳。マンホールの周りにぐるりと石を並べて納めてましたね。石も不揃いで古そうな感じですが、ヨーロッパの石畳は必ずしも古いものではなかったりする場合も多いのだとか。戦後のモータリゼーションで一度はアスファルト舗装の車道にしたものの、旧市街の環境保護のため、路面電車を復活させて車の通行を制限してアスファルトをやめて石畳に戻した事例など。だから、石畳のある街並みだからといって、必ずしも昔からの風景、という訳でもなかったりするみたい。

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ケーブルドラムも見かけました。前に記事で書いたことがあったので、ちょっと反応して写真を撮ってしまいました。風化した色合いとかモデリングの参考になります。

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ドラムの直径にはいくつかのバリエーション。大きなドラムは太い電線。小さなドラムに巻いてあるのは細い電線。こう書くと当たり前に思うけど、これを見るまではドラムのサイズの違いはなんだろう?と思ってましたよ。

ドラムが勝手に転がっていかないように、適当なものでストッパーをかませてあります。こういうリアルは意外と盲点。

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by hn-nh3 | 2018-10-16 20:24 | 資料 | Comments(2)

戦争のかたち

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既刊本の紹介。「戦争のかたち」(下道基行 著  2005/7 発行 リトルモア 20.8×14.6×1.6cm 120P )
かれこれ10年以上前になるが、北海道の十勝平野の海岸線に戦時中に作られたトーチカ群が今も残っていることを知った。軍事構造物としてはナチスドイツが大西洋岸に築いたアトランティックウォールの要塞群が有名であるが、旧日本軍が米軍の上陸に備えて北海道の太平洋岸に構築したトーチカはなんとも貧弱で、侘しく取り残された風景が気になってしまった。

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そのころに見つけて買った本です。紹介する画像はすべてこの本から。

2005年というと、Googleの画像検検索、気になる本はAmazonで購入というのが情報との出会い方として一般的になっていただろうか。発信の仕方も大きく変わっていった頃か。カメラではなく、携帯で写真を撮って、HTMLを知らなくても使えるブログにアップしたり。

著者は1978年生まれ、2001年に武蔵野美大油絵科を卒業。卒業後にピザ屋で宅配をしている時に偶然出会った戦争遺跡に衝撃を受けてカメラを買って旅に出た、ということだ。決して軍事研究者だった訳でもなく、写真家だった訳でもなく。

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d0360340_19495288.jpgだから最初に言っておくと、廃墟マニアやミリオタのための写真集とか、歴史遺産の記録資料といったことを期待すると、少し拍子抜けするかもしれない。カメラを生業とした作家の写真集、といった風情でもない。..もっともっと軽い、のである。

だから面白い。戦争を知ってるとか知らないとか、そういう話ではなく、日常に紛れ込んでしまった「日常のかたちではないもの」を拾い集めた記録。

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前回の記事で少し紹介した大阪の東淀川区、西淡路高射砲台はこの本に載っている写真で知った。住居として改造されたこの砲台跡に住んでいた人もその頃は健在で、著者が2004年にインタビューした記事も掲載されている。

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同じく前に記事で紹介した東京の葛飾区 白鳥の高射砲陣地跡逗子の披露山公園の花壇に改造された高射砲陣地も写真が載っている。キャプションは地名のみで詳細な解説がある訳ではないので、ひとつひとつの写真の印象は薄く、昨日ふたたび本を開くまですっかり忘れていたくらい。もちろんそれは写真としての強度云々の話ではなく、通り過ぎる風景のように、気になった時にまた出会えばいいのだ。それだけの話。戦争ネタだからと言って別に懐古趣味的に語る必要もないし反戦的なフリをする必要もないし。

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「戦争のかたち」の歩き方 という見出しで、遺構のある場所の地図も載ってる。トーチカ、砲台、掩体壕などなど、実際に見に行く人は少ないと思うけど、これは便利かもしれない。というかこのフラットなビジュアルが、この本に通底するトーン。

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遺構が転用されて住居や公園施設になっている事例をポップなグラフィックに起こして説明している。物件毎の固有のディテールを捨象してタイポロジカルに表現したビジュアルは、楽しいけど写真に対して必ずしも成功していないように思う。気分はわからない訳ではないけど。


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その黄色いページに載っている「砲台パーク」こと、大分県の丹賀砲台園地の現存する砲台内部。トップライト屋根と螺旋階段を作って見学施設とした空間は圧巻。これはちょっと見に行きたい気もするけど、GoogleMapで調べたら地の果てのような場所

これに限らず、よくもまあこんなところまで行ったな、というのが多いです。自分もいくつかは実際に訪れたことがあるからわかるのですが、写真というのは1方向的なものだから必ずしも風景をリアルに捉えたものではない、という気がするのも事実。しかし、この本、間違いなく「買い」ですね。

本に載っている写真やビジュアルの一部、砲台住戸の住人インタビューなど、著者のホームページで見ることができます。

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(写真は全て「戦争のかたち」下道基行 著 より)

by hn-nh3 | 2018-09-12 22:04 | 資料 | Comments(4)
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1945年7月のベルリン。木製カートに乗った少年の画像は「Berlin and Potsdam 1945 - aftermath (HD 1080p color footage):Youtube から。

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終戦直後のベルリンを映したカラーフィルムですが、前に記事(難民カート)を書いた時に紹介したものよりも長いバージョン(30分)がYoutubeにありました。
廃墟となったベルリンの街。進駐するソ連軍や米軍、瓦礫を整理する市民。各地から引き上げてきた人々、交通整理にあたるドイツの警官。などなど見所は多く見ていて飽きないフィルムです。

戦後2ヶ月経った映像なので戦車など放棄車両の類はさすがに片付けられてしまっているようで、その方面を期待すると肩透かしをくらいます。

それでも映像の中にはこんな車両も。これは何?


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しかし、がっかりすることなかれ、今回の本題は映像に登場する荷車の類。前に書いた記事の続編です。 戦車ネタでなくてすみません(笑)

d0360340_05344197.jpgMiniArtの「ラゲージセット 1930~40年代」(no.35582) はボックスアートに描かれた廃墟の風景から、これは平和な時代の旅行道具ではなく、戦争中に避難する市民や住む場所を追われて難民となった人びとの荷物であることを暗示していると、前に記事(難民カート)に書いこともありましたが、そのキットが先日発売されたので早速に組立てレビュー。





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部品分割は細かすぎずアバウト過ぎず、といったところか。ベビーカーの車輪を支えるアームが装飾を兼ねたサスペンションになっている構造もしっかり再現されてます。エッチングにたよらず全てプラスチックで出来るのもいいですね。最近のミニアートらしく成形はきれい、一時期見られたプラスチックがポキポキ折れる現象も解消されてますね。思うにあれはプラ質の問題以上に射出成形時の温度管理が悪かったんじゃないかしら。

パーツの勘合もよく組立てもサクサク進んで、あとは車輪をつけて完成、ということろで問題発覚。車輪を車軸に取り付けるための穴が空いてないのです。組立説明図にはダボ穴らしきものが表現されていて、車軸には小さいながらも先端にダボがつくられているのに車輪側はのっぺらぼう。金型製作時のモデリングデーターに穴の入力を忘れたのかしら。セカンドロットでは改善されるといいですね。

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d0360340_08003590.jpg車輪に0.5mmの取り付け穴を開けて接着。サスペンションのアームつく車軸はカート本体から浮いた構造になっているので、実物はそれで衝撃を吸収できるようになっているのですが、模型としては華奢なので見えないところで補強したほうがよさそう。
ベルリンの映像に映るベビーカーは4台(1台は遠景だったので割愛)ですが、どれも車輪がスポークタイプ。キットはプレスタイプとなっているのが違うところですが、シルエットは同じで当時の標準的なタイプなのでしょうか。当時の写真でベビーカーの写真をいくつか確認してますが、ほとんどスポークタイプでした。まあそれをエッチングで再現するのは大変なので、プレスタイプでいいとは思います。

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カートの組み立て。これは少し前に発売された「小型カートとミルク缶」(no.35580)に入ってたものと同じ。裏面にはちゃんとシャーシが再現されてますね。小さな脇役アクセサリーながらもしっかりとリサーチして再現してあるのは嬉しいですね。こんなの自分でディテール調べて工作するの大変ですから。
前輪のステアリングの機構、引手が上下動するディテールもしっかり表現してあります。真鍮線で軸打ちすればそれぞれ可動するようにもできそう。こんなもの可動させて楽しいかという話はありますが。



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フィルムに登場するカートをいくつか。前輪と後輪の直径の違いのバランスなどいくつかのバリエーションがある様子。スポークは10本が一般的なのか。キットの車輪も10本スポークですね。
ちなみに前に記事(荷車メモ)で取り上げたMasterboxのフィギュアセットに付属のカートの車輪は8本スポーク。

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比較してみます。左がMasterboxのもの。右がMiniArtのカート。スポーク本数の違いの他にもサイズがずいぶん違います。まあこれはどちらが正しいという訳ではなく、タイプの違いと考えるべきものかと思います。8本スポークのカートも当時の写真で確認できます。ディテールは新しいMiniArtのキットのほうが繊細。

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小形カートとベビーカーの2ショット。とりあえず組立ては完成。軽くサフ吹いて記念撮影。

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そしてラゲージセット・オールスターズ。カートのほかにはトランク類とジャガイモ袋、などなど。エッチングパーツは無し、トランクに貼るステッカーがデカールで用意されてます。

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トランクも大きいのから小さいのまで。メーカーなど調べればモデルとなったタイプも分かるのでしょうが、そこまでは調べてません。ごめんなさい。
ルイヴィトンのモノグラム柄とか塗装でがんばって再現できたら楽しそう。このサイズでそれは無理だと思いますが。
寸胴のドクターバッグは側面が別パーツのはめ込み式になっていた少し潰れた感じがうまく再現されてますね。お医者さんが往診の時に診療道具を詰め込むのに便利な形なのでこのタイプはドクターバッグと呼ぶようですね。レッドクロスをつけた車両に積むなどちょっとしたアクセントになりそうなアイテム。
円筒形のバックが帽子ケースかしら。それぞれディテールもしっかり表現されてますが、取手の付け根など少し手をいれてやるとぐっとよくなりそう。


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ベルリンのフィルムにはこの他にもいろいろなタイプのカート、荷車類が登場。民間人の服装や荷物類がカラーで分かるのがいいですね。モデリングの参考になります。この他にもMiniArtのフィギュアのモデルになっていると思しき人物など登場して、その話もしたかったのですが、長くなるのでこれはまた別の機会に。

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前に書いた関連記事INDEX:
・難民カート
・荷車メモ

by hn-nh3 | 2018-08-22 09:11 | 資料 | Comments(17)

難民カート

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MiniArtからメールマガジンが届きます。何か登録したっけな?と思いつつ、好きなメーカーではあるからそのままにしてますが。

LUGGAGE SET(No.35582)がもうすぐリリースとのお知らせ。2018年のカタログにホワイトバックのモデリング画像で発表されたときになんとなく気になってましたが、このボックスアートを見て、やっぱりそうなのかと。
タイトルは1930〜40年代荷物セットとなってるけど、廃墟の街を背にした荷物は、夏のバカンスのためのものではなく、これは故郷を追われる人々の荷物なのだと。
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d0360340_19281217.jpg難民の話はこの前の記事:荷車メモ で少し触れましたが、このキットから想像されるのは1945年のドイツ人追放

敗戦で1200万人とも1600万人とも言われるドイツ人が旧領土や占領地から追放されたと言われています。当時のドイツ人の5人に1人くらいの人が住む場所を失った、ということでしょうか。着の身着のまま身の回りのものをカバンに詰めて、ベビーカーにもありったけの荷物を積んで西に移動する姿が写真に残ってます。

王道楽土の開拓からの引き輪げではなく、戦争の結果の国境変更により故郷を追われた人々。ドイツ国境は戦後に東側がごっそりポーランドになってるんですね。ポーランド自体も東半分をソ連に持ってかれて西側をドイツから得て、国自体が西にスライドしてるような有様。フィンランドも然り。国境はあくまで結果です。
そうしたヨーロッパの状況を知ると、北の島々が元の持ち主に返されるなんて幻想だってのがわかります。まあ元の持ち主って誰?という話もあるけど。

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もちろんキットの使い方はそれだけではないし、モデリングとしての個人的な興味の範疇は荷車系のベビーカーと小型カート。

キットのパーツランナーを見ると、MiniArtらしい繊細さでベビーカーの華奢な感じがうまく表現されてますね。PEパーツに走らずプラパーツのみで再現できるのは嬉しいですね。ハンドルは折れてしまいそうな細さでさすがに真鍮線で作り直したほうが良さそう。

スケルトンタイプの小型カートは牛乳缶セット(No.35580)に入ってるのと同じもので、ゴートカートとかドッグカートと呼ばれる当時一般的なタイプのもののようです。キットの箱絵のようにジャガイモ袋を積んでもいいしトランクを載せてもいいし、毛布を自作して積み込んでもリアル。

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ベビーカーと小型カート。前回の記事の時は「農業用カート」で検索しても当時の小型カートの写真をなかなか見つけられなかったけど、「難民」をキーワードに検索すると荷車やベビーカーの写真が続々と出てきます。キットと同じスケルトンタイプの4輪の小型カートの写真も見つかりました。
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d0360340_19434443.jpg上の写真は1946年7月、チェコからドイツ本国に向かう人の列。ベビーカーで荷物を運んでいる人の多いこと。確かに、普通の一般家庭にある車輪つきのカートというとベビーカーぐらい。

キット化されたタイプも見かけます。側面の模様に違いはあるものの一般的なメーカーのものだったのでしょう。それがどこのなにかまでは突き止められず。

ベビーカーやカートが写っている動画も見つけました。


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敗戦後のベルリン。避難先から戻ってきた市民でしょうか。3:45秒にベビーカー、3分50秒と4分00秒にカート、5分10秒頃にベビーカー。街はまだまだ廃墟。破壊された車両も転がったまま。ガソリンなしで動けるから便利なのか、自転車乗ってる市民が目に付きます。


その他、こんな写真を見つけました。
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1945年3月、ドイツ国内ベンスハイム。廃墟を前に呆然とする女性の名前はアンナ・ミックス。64歳。写真はWikimedia Commonsより。

この人、どこかで見たことある、と思ったら、これ。
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MiniArtのフィギュアセット:1930~40年代のドイツ市民(No.38015)。真ん中のお婆さんのモデルですね。といっても全く同じではなく、モデルの女性は60代のメガネをかけたシルバーマダムですが、キットではもう少し年配、70過ぎの老婆といった感じで脚色されてます。

彼女に限らずMiniArtのフィギュアには当時の写真の中にモデルがいたりするので、ひょんなところで出会ったりすると楽しいですね。右端の警官もキットにコンパーチブルで入っている制帽をかぶった姿でいるのを、上記の記録フィルム(5分05秒頃)の中で見かけましたよ。

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去年のSUMICONの時に作ってみたもの。フィギュアの塗装は出戻り後初めてだったので、顔の塗り方とかまだまだですね。すべて油彩です。右手の杖は真鍮線で作り直してあります。使うシーンにあわせて左手の角度はキットのオリジナルのポジションから少し調整したと思います。

フィギュアは塗装作業とベースへの固定のために足裏に打ったピンを洗濯はさみに固定して写真を撮ってますが、ピンなしでも自立するように足先の向きとか微妙な角度を調整してます。これに限らず静止した立ち姿のフィギュアは足の角度や腰とか背中の向きを微調整して、支えなしでも自立するように調整するといい感じになります。両足がつくる台形の地面のエリアに重心を納めればフィギュアは自然に立つようになります。

もちろん実際の人体とフィギュアでは身体部位の重量バランスが違うので厳密には違うのですが、人間が立つというのはそういうことですから。自分の中の言葉では「重心が見えるようになる」までポーズを微調整します。
歩いている、動いてる姿勢の時は、重心を足先から外すようにします。外れた重心に向かって身体を移動させて再び安定させようとする随意反応が「運動」だから。

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製作記事:Grille弾薬運搬車改造3.0cmFLAK 1945.5 Praha

1945年5月、戦争終結時のプラハで我が身の行く末を案じるドイツ系女性、という設定で登場してもらいましたが、見立てはだいたい間違ってなかったですね。

この時は、車両の塗装やジオラマベースの製作そしてフィギュアの製作など、最後はバタバタでろくに製作記事も残さず完成させてしまったので、どこかで機会をつくってそれも書き留めておきたい気もします。車両に載せた新聞とかパンの「焼き方」とか、いつか忘れないうちに。


by hn-nh3 | 2018-05-26 09:41 | 資料 | Comments(4)

ロコムモデル

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超解像度のエッチングパーツを発表するROCHM MODEL(ロコムモデル)。その恐るべきディテールと考証密度は圧倒的。四谷仙波堂でもページを割いて詳しく紹介していますね。

(写真はいずれもロコムモデルから)
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見てるとクラクラしてきます。エッチングパーツを発表しているのは今のところ殆どパンターとティーガー関連で自分にとってはどちらの車両も「今期の生産計画」には入ってないこともあって、これを使うことはないだろうなとスルーしていたのですが、たまたまメーカーのホームページを見て、ちょっと心を掴まれました。

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ホワイトバックの写真が印象的なページデザイン。エッチング製品の紹介コーナーもさることながら、それ以上に主催者のRochmCheng氏の制作する模型の数々:Workbench が素敵です。
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未完成キットのパレード。上の写真は紹介用にこちらでレイアウトしたインデックスなので、ホームページで直接見てもらったほうがいいと思いますが、キットのオリジナルの部分と手をいれたところのバランス感。これを見ているとプラモデルって完成してなくてもいいのかも...というより、未完成の状態こそが模型の美しさなのでは、と思ってしまいます。

自分の模型が完成しない言い訳に使うつもりではないけど。

もちろん、模型は塗装までして完成させても魅力的。RochmCheng氏の完成模型のGalleryも必見。
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詳しくはページを直接見てもらいたいのですが、これまた超解像度の塗装表現。
現実の車両の塗装の光沢感とうっすらと積もった土埃。いつもそんなに汚れたりあちこち錆びたりしている訳でない戦車のリアリズムが追求されています。そして、足回りの泥汚れやレインマーク、排気の煤やグリースオイルの染みも車両の設定にあわせて本当に必要なものだけが的確に。

この作品群を見てると、流行のウェザリング商材の塗装見本的なテクニックというものが、リアルさの追求からいつの間にか遠くなった様式的な表現にも思えてきます。我が身も反省。

by hn-nh3 | 2018-05-23 08:36 | 資料 | Comments(6)

荷車メモ

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At the market in Baryssau, Russia 1942:Franz Krieger

1942年、旧ソ連領内(現ベラルーシ)ミンスク近郊の都市、ボリソフ(Барысаў)の市場での一枚。撮影はフランツ・クリガー(1914-93)。オーストリアの写真家で戦時中はPKに所属。> LENS | World War II Mystery Solved in a Few Hours
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AT THE BERESINA NEAR BARYSSAU, RUSSIA 1942:Franz Krieger

写真はいずれも PIXPAST より。カラーフィルムのプライベートコレクションで、WEBで公開されている大戦期のカラー写真はフィルムからの色再現が見事で当時の実際の色調を知ることができる貴重な資料。
AFVに限定した写真コレクションではないので、それを期待すると少しがっかりしますが、それでも独ソ線初期のソ連戦車(BT,T-35)やドイツ軍(3号戦車、8輪装甲車、ソフトスキン)やフランス線で遺棄された仏軍戦車など、原版自体の発色や退色で再現しきれてない色もあるけど、このコレクションに登場する戦車や車両の色調は模型製作の参考になります。白眉はアフリカでロンメルが使用していた”MAX”のカラー写真でしょうか。個人的には当時の街や村の風景、人々の姿などAFV写真集では得られない情報がたくさんあって好きですね。
写真にはいずれも著作権があるので、上記2点は有料データー購入。



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製作中のKV-1戦車は、必要なメッシュ材料の調達や細部仕様の確定作業で、ちょこっと休憩タイム。(そのまま中断、ってことにはならないので大丈夫..) 

今日のお題は当時の写真に登場する農業用カート。

秋葉原のパーツバラ売りコーナーでちょっと前に購入。
このコーナーは戦車のキットのパーツランナーをバラ売りしていて、欲しい部品の調達に便利だったりしますが、フィギュアセットもランナーを細切れにしてフィギュア単体でバラ売りしてたりします。セットはいらないけどあの人は気になるなーなんていうときに、出会えると嬉しいですね。

もちろん全てのキットが並ぶ訳ではないので(どっちかというと在庫処分?)パーツとの出会いは一期一会。使うあてもないのに、つい買ってしまったりします。
                        
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小型のカートのパーツはMasterBox 3567「第二次大戦期の西欧市民」のセットに入っているもの。キットの箱絵には姿は描かれてません。農夫の傍に置く小道具にでもとセットされたのでしょうが、しかし2人の大人と少年少女が並ぶシーンにはちょっとそぐわないので表紙からは省かれたのか。いずれにせよ、このキット(セット未購入)に小型のカートが入ってるなんて知りませんでした。

d0360340_13394751.jpg余談ではあるけど、このキットにはシリアスな話題に触れてしまう部分があって、ボックスアートの右側に登場するヒゲを生やしたおじさんは実はユダヤ人だというような話。
これについては、かつて ”赤軍博物館別院 別当日誌”や模型慕情さんが記事で扱っていたのでそちらも参照。

ボックスアートの裏側には小型のカートと4人の組立図。帽子姿のヒゲのおじさんはキッパ(ユダヤ帽)とのコンパーチブル。少年も帽子を選べます ..軍帽をかぶって台車で何を運ぶんでしょうね。箱裏絵の構図からなんだかいろいろと想像してしまう。

どうしたものか、荷車の風景写真でピックアップした冒頭の2枚。意図したものではなかったのだけど、ボリソフ、ミンスクという街は、避けがたくそのことに関わる場所だったようです。
それ以上はここで語ることはしませんが。

話題を変えましょう。
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組み立ては一瞬です。荷台のフレームや車輪のスポークなどパーティングラインの処理は少し面倒だったけど、簡単に組みあがります。
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カートの裏側。前輪は引棒にあわせて方向転換できるように構造。引棒も高さを変えられるようなディテール。接着してしまいましたが、真鍮線を軸打ちすれば可動にもできそうです。動かして遊ぶことはないと思うけど。
なんとなくひっくり返ったカブトムシみたい。本来は何を運ぶためのカートなんでしょうね。

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このタイプのカートはポピュラーなのか、MiniArtの最近作:「ミルク缶と小型カート」(no.35580) のセットにも入ってますね。荷台のコーナーに柱のないタイプでMasterBoxのものとは細部が異なります。特にどこかのメーカーが専売特許で生産しているものではないだろうから、いろいろなバリエーションはありそうです。

d0360340_14285900.jpgMiniartnのキットの組立て説明図を見ると、前輪周りも少し複雑な構成。どちらが正解というものでもなさそうですが、モールドなどはこちらのほうがシャープな予感。ミルク缶は使う用事ないしとスルーしてたけど、買わないとだめかな。

この小型カートはアンティークとしても人気があるようで、Farm CartとかGoat Cartで検索すると、e-Bayなどで売ってるのが見つかります。花屋とかパン屋の店先においたら可愛いのでしょうね。

名前の話。Farm Cartというのはわかりますが、なんで「Goat Cart」というのか。検索するとヤギに牽かせた小さな馬車の写真がでてきて、「Goat Cart」というのは、総じて子供が馬車遊びをするためのおもちゃと思われます。しかし、それは2輪のいわゆるリンバーの子供版がほとんどで、キットでも再現されたタイプの4輪のカートをヤギで引いている事例は見つからず、なぜこの4輪カートも「Goat Cart」というのかは結局わからず。馬車とか西洋アンティークに詳しくないのではっきりとしたことは分からないけど、小型のトイカートのことをゴート・カートと呼ぶのかもしれません。ひょっとして、ゴーカートというのもそこからきてるのか?

この小型のカートが当時の写真に写っているのを探したのですが、見つかりませんでした。考えてみれば、目の前をティーガーとかパンターとか通り過ぎるのはカメラマンもすかさず写真に撮るけど、スターリン戦車に背を向けてこんな民生用カートを撮ったりはしないと思うし。

(築地市場でターレーを撮らずにゴミ収集ビークルにカメラを向けるようなもの...)

とはいえ、意地もあるから見つけました。キットのタイプそのものではないけど。
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YouTubeの動画:Rhineland-Palatinate in April 1945 (in color and HD) 10:00頃に登場

荷台がフレームのスケルトンタイプではなくて板で組まれた箱型タイプ。スケルトンタイプはミルク缶とか干し草運んだりするには便利ですが、小物を入れて避難するにはこっちの箱型タイプのほうが役に立ちそうです。暇なときにでもキットの荷台をこのタイプに改造してみようかしら。

この動画が撮られたのは1945年4月。ラインラント=プファルツ州ということで地理的にはベルギー、ルクセンブルグ、フランスと国境を接するあたりか。

「Goat Cart」は検索すると、German Farm Cart という名前ででてきたりもするから、ロシアや東欧ではなく、ドイツやフランスなど西ヨーロッパで一般的な小型荷車という気もします。(要確認)

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1/35スケールのキットで民生用/非武装カートにどんなものがあるかを集めてみました。軍用タイプは除いて、その他にも、件のMasterBoxのゴートカートのようにボックスアートに載ってないもの、一輪車など手押車のタイプ、見落としたものなどまだまだあるかも知れません。レンジキットメーカー:スターリングラードから出ている農業用カートはまさに冒頭の写真に登場するようなタイプ。タイトルにロシアの荷車とかウクライナの荷車とかありますが、地方によってどう違うのかはちょっと調べたくらいではわからない奥深き世界。

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レジンメーカーのスターリングラードからは、荷車に避難民を乗せたセットも出てます。上掲の動画もそうですが、民間用カートが登場する風景を探すと、従軍カメラマンが写真を撮ってる場所というと、やはり戦場から避難する、占領地から逃れる難民の写真にぶつかります。

この母子が荷車に乗った写真はドイツ軍がいなくなった村に帰還する時の写真のようですが、いずれにせよ戦争は抽象的な戦場ともいう無人の荒野で専ら行われていた訳ではなく、日常の街や村、畑があったところで起きていたことなんだなと..

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小さなカートが気になってキャプチャした写真ですが、背景は完全に破壊された村。

MasterBoxの小型カートのキットは、この前のSUMICONで制作したT-60のジオラマで使えるかと思って買い込んだものでした。
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記事は:ROSTOV 1942.8 :T-60 (Plant no.264) INDEX 参照

舞台設定はスターリングラードの前哨戦、近郊都市ロストフ陥落の少し後の風景。撤退、そして新たな戦線に送られる兵士、占領された街や村から逃れる住民の姿など、小さなベースの外側で起きている出来事が見えてくるように、何かベースの中に関連した小物を配置したくて、その候補のひとつで買ったのがMasterBoxの小型カート。

結局、スペース的な制約もあったし、小物の設定に作り込みが足りないと冗長になるだけなので、壊れたカートを配置するのはやめましたが...
戦場ではあるけど同時にそこは誰かが普通に暮らしていた日常でもあるような。
それもあって、戦車に踏み荒らされるのは草原ではなく麦畑。

戦車の模型を作る以上は、反戦を声高に訴えるとか戦争の悲惨さを伝えよう、なんてこと言うつもりは全くありません。しかし、戦車の模型を置くための「ベースという模型」は戦車がくる前からそこにあった場所、ともいうような日常世界をどこか表現しておきたいという気持ちがいつもあります。戦場だけど日常世界でもあるベース、の表現。 兵士たちがトランプに興じる戦場の日常ということではなくて。
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なんとなく雨の日は内省モード。





by hn-nh3 | 2018-05-13 18:23 | 資料 | Comments(4)

重力と線

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象を飲み込んだウワバミのなかみを書いてみました。正確に言えば、サン=テグジュペリの「星の王子様」の挿絵を真似て書いてみたところ。新しいシャーペンを買ったので、試し書きがてら久しぶりにシャーペンで絵を描いてみた。

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シャーペンを使う機会はめっきり減ったけど、模型制作で正確な線を引くにはやっぱりちゃんとしたシャーペンが欲しい。リベットを打つ位置やカットする寸法を定規から正確に転記するには、できるだけ芯が細いことが理想だけど、強度のこともあって芯の太さは0.3mmが限界なのかと思っていたら、0.2mm芯のシャーペンがありました。その名は「orenznero」(オレンズネロ)。Pentelから2017年2月に発売。(コンセプトドローイングはメーカーサイトより引用)

d0360340_18372300.jpgメーカーサイトによれば、芯の減り具合にあわせてシャフトのパイプがスライドすることで極細芯で書くことが可能になったのだとか、また自動芯送り機構を搭載して芯の出しすぎで折れるのを防止する、とのこと。

ちょっと興味を惹かれたので買ってみました。新機軸の技術云々以上にドローイングの製作図面のようなロゴがツボだったので、ほとんどジャケ買い。
届いたパッケージは黒地にシャーペンの図面のグラフィックがクールでよい感じ。

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早速、箱を開けて常用のシャーペンと比較してみます。上が新しく買った「ORENZNERO」0.2mm。下が常用のシャーペン。同じくPentelの「GraphGear」0.3mm。芯を保護するパイプの太さをデジタルノギスで測ってみると。「ORENZNERO」が0.5mm、「GraphGear」が0.8mm。

ちなみに「ORENZNERO」のネーミングは左側から読んでも右から読んでもオレンズネロ。自動芯送り機構でずっと描き続けられることを表現しているのだとか。

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ガチンコ対決。0.2mmと0.3mmの芯で買いた線と文字。芯の硬さにも影響されて、ぱっと見でそんなに変わらなく見えたりして正確な比較にはならいのですが、0.2mmのほうが線は軽い感じですね。折れずに描けます。ただ、オレンズネロの場合、シャフトからほとんど芯が出ないで書けるようになっている反面、たとえば定規で精密な線を引くとか、定規の目盛りにあわせて寸法をプロットする、というような使い方をする場合は、シャフトの「厚み」が少し邪魔になるかも。芯を余分に出して、折れやすくはなるけど芯の細さを生かして使うのがベターかな。

d0360340_19112868.jpg使い終わった後は、ノックボタンを押しながら芯を紙に押し付けてやると、芯送りのシャフトパイプがペン本体に収納される仕組み。

鞘に収まるというか亀みたいというか、精密なシャフトが本体の中に隠れることで、うっかり床に落として先端を曲げてしまう事故を防げるのは嬉しい配慮。

今まで落としてオシャカになったシャーペンの多いこと。紙の上に文字を書くだけならそうでもないけど、模型のパーツを手に持って、寸法を移したりしている時に、ついうっかり手から滑り落ちること、ありますよね。



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「本当の定規」も買いました。コクヨから発売の15cmの定規。30cmnのバージョンも発売されてるみたいですね。gizmologの記事で知って購入。AMAZONなどでは売ってなくメーカーの通販サイトから。

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この定規の画期的なところは、何よりも「厚みのない線」を実現したこと。通常の定規のように目盛りを印刷(or刻み)の線で表現する限りは線自体の太さからは逃れられなくて、線の太さが0.2mmなら1cmといっても厳密には9.9mmから10.1mmまでのブレが生じてしまう。線の中心で目盛りを読むのか、端のどちらかで読むのか決めておかないと、誤差は結構大きい。たかが0.2mmといっても、シャーペンの芯の太さほどある訳だから。
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「本当の定規」では目盛りは線ではなく面のエッジで表現されている。物質世界で線を表現しようとする限りは、その線を実現する物質の「太さ」から逃れることはできなくて純粋な一次元の線というのは概念の中にしか存在しない。しかしこの「本当の定規」では、面という2次元の終わることにON/OFFの切り替わる「線」が現れる、ともいうような目からウロコの表示の仕方。

この定規の「正しい目盛り」を頼りにオレンズネロで引いた0.2mmの線が太く見えますね。こうなるとシャーペンももっと細い芯の製品が出ないかしらと思ってしまうけど、芯という太さが必要なものを使う以上は限界がありそう。やはりカッターで面を切り裂くことでしか物質的厚みを持たない線は引けないのだろうか。



しかし面が終わるところに厚みを持たない1本の線が現れるという思考にはワクワクしますね。物質から解放された無重力の線、ともいうような。

その昔、地球が丸くなかった頃、この世の果てには海が滝のように奈落へと流れ落ちる場所があって世界はそこで終わる、という風景が想像されてたようですが、この「正しい定規」を見てるとそんな世界の終わり方も素敵だなと思ったりします。

まだ訪れたことのない遥か遠く南の海と島々が突然に厚みを失った映像のように流れおちて世界が終わる場所。

その風景を想像してPhotoshopで作ってみたよ。
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世界の終わるところの想像図:※イメージなので実際とは異なる場合があります。



by hn-nh3 | 2018-05-11 20:24 | 資料 | Comments(0)